15.6 年上の弟子
土曜日になった。朝早くに魔法学校を出て、事務所に向かった。扉を開けると、もうフィーは来ていた。ココルと向かい会って座っており、フィーはリラックスして、ココルは思いっきり警戒していた。
「早かったな」
「修行をつけてもらうからな」
「その前に、少しだけやることがある。目をつぶって肩の力を抜いてくれ」
フィーは言われたとおりにする。俺は軽くうなずいて、自分の体をマルにゆだねた。
意識が戻った。どれぐらいの時間、肉体を任せていたのか分からない。俺は椅子に座ったフィーの後ろに立っていた。フィーは何も気づいていない様子だった。
俺はマルの姿を探す。机の上に立っていた。マルは終わったと俺に伝えてきた。全自動魔法の、人工精霊に与える命令を書き換えたのだろう。
「あー、それじゃあ目を開けて立ってくれ。簡単な講義をおこなったあと、実際の修行に入る。この技は門外不出だ。部下など、他人に教えてはならない。分かったか?」
「ああ」
「破った場合は罰が与えられる。俺が見ていなくても、罰は勝手に発動する。おまえは死ぬ」
フィーは、一瞬眉を動かした。こちらが何をしたのか考えているのだろう。
「分かった」
「よし。それでは講義を始める」
俺は部屋をゆっくりと歩きながら、これまで学んだことから、フィーに教えてよいことを抜粋して語りだした。
「魔法は魔力によって発動する。この魔力は、霊力や気力とも言う。フィーが言っていた東の武術家が使うという気も、おそらく同じものだろう。
この魔力は霊体と物体に変換できる。人間は霊体と物体が重なり合った存在だ。
魔力から作った霊体を、人間の霊体にぶつければ相手の意識を奪える。気を使って相手を昏倒させる技は、おそらくこれだ。
魔力から作った物体を踏み台にすれば、高い場所に上ることもできる。ただ物体化は魔力の変換効率が悪い。あまり多用できる技ではない。
ここまでで質問は?」
「一般的な魔法とは、まるで違うもののようだが」
「そういう技だと思ってもらえばいい。他に質問は?」
「おまえに昏倒させられた部下は、まるで斬られたように感じたと言っていた。魔力から作った霊体はぶつけるだけなのか?」
なかなか鋭い。そして、きちんと予習してきている。
そもそも、ボブの酒場で修行の話を出した時点で、俺が使っていた技は習得可能なものだと予測を立てていた。
「魔力を霊体化するときに、形状を作り込むこともできる。また、作った霊体を放つなど、操作することもできる。まっすぐ飛ばすとか簡単な動きしかできないがな。
俺が放った技は霊撃という。霊体で刃を作り、他人の霊体に傷を負わせる。魔法への耐性がない者は、自分が斬られたと感じて昏倒する」
フィーはにやりと笑う。フィーが身に付けたい技はこれだろう。『氷の刃』と使い分ければ、暗殺も拉致も自由におこなえる。
「それじゃあ、さっそく修行に入るぞ」
俺はフィーを相手に、ココルにおこなったときと同じような修行を施した。マルの予想どおり、フィーは土日の二日間で魔力の霊体化と物体化を身に付けた。




