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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第15章 裏社会の暗殺組織

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15.3 包囲陣

 ラパンのアジトに行った帰りに、フード付きマントの人物二人に前後を塞がれた。どうやら、暗殺組織ジンの者たちらしい。どうやって逃げるかを考える。


「アステル様。家のあいだを抜けましょう」


 ココルが、細い隙間を指差す。

 いや、敵は俺たちを徐々に狭い場所に誘導している。このままでは剣をあつかうスペースがなくなってしまう。


 俺は腰を屈めて、足元の砂を拾う。


「シフ、砂をあいつの目に運べ」


 霊餅を作って与える。そして、砂を前方にぶちまけた。

 砂は落下せず、風に乗って運ばれる。そして、目の前にいる相手のフードの中に飛び込んだ。

 俺はココルを促して一気に駆ける。相手の目に砂が入り、顔を押さえている隙に、横を通り抜けた。


 霊撃を使うよりはるかに魔力の消費が低い。簡単な餌を与えて命令しているだけだ。

 なるほど、これは純粋魔法から精霊魔法に移行するわけだと納得した。


 しばらく走った俺たちは再び足を止めた。前方からフードをかぶったマントの人間が現れた。どうやら何重かの輪に絡め取られているらしい。

 このままでは囲まれて殺されてしまう。想像よりもはるかに面倒な相手に目をつけられてしまったらしい。


 グラノーラたちを先に帰しておいてよかった。あとは俺とココルで何とかこの場を切り抜けないといけない。


 敵の数も規模も分からない。全員が同じ格好をしているせいで、指示系統も窺い知ることができない。

 何とかリーダー格の人間を特定して、対話に持ち込みたい。そのためには、こちらが圧倒的に有利な状況を作り出して、話し合いの席に引きずり出さないといけない。


「ココル、背後は任せた。一人ずつ無力化していく」


「はい」


 俺とココルは互いに剣を抜く。

 俺は霊魂の目で周囲を見る。隠れている敵を把握するためだ。

 建物の陰と、屋根の上に一人ずついる。眼前と背後の敵を合わせて四人。さらに遠くにいるかは分からない。


 常時、この状態を保てれば尾行も気づけるのだろうが、まだそこまで維持できる能力はない。それに遠距離を感知するには方向を限定しないといけない。


 霊魂の目を解いた。同時に複数の技を維持するのはまだ難しい。

 俺は、敵の右手に回り込む振りをして、左手に霊撃を放つ。初見殺しの攻撃だ。敵は俺と距離を置くために移動する。霊撃が命中して相手は昏倒した。


 俺は一歩近づき、フードの中を見る。仮面を着けている。この様子なら全員同じ仮面を着けていると考えるべきだ。

 復活した際の機動力を削ぐために、倒れた相手の太ももと利き腕を剣で刺す。殺さないのは、最終的に対話に持ち込むためだ。


 敵の包囲網の一角を崩した。次の動きがあるはずだ。すぐに頭を切り替えて霊魂の目で周囲を見る。

 屋根の上にいた敵が空中に飛んだ。陰が落ちないように建物の陰に入っている。俺は振り向かずに避けて、短剣を持っていた敵の腕を刺突する。


「ココル。太ももを刺して、動けないようにしておけ」


「はい!」


 ココルと位置を入れ替える。俺は背後の敵に素早く近づき、剣を大振りにする。

 敵はバックステップでかわす。剣の先に霊撃を加え、間合いを変えて昏倒させる。こいつも、利き腕と太ももを刺して無力化する。


 再び周囲を探索する。めまぐるしく使う技を変えているので神経を使う。

 前後からもう二人近づいている。建物の陰の敵は動いていない。こいつがリーダーかと当たりをつける。


 素早く腰を屈めて、足元の砂を拾う。


「シフ、砂をあいつの目に運べ」


 建物の陰を見ながら砂を斜め前方に投げた。シフが素早く追随して、建物を回り込んで砂を運ぶ。


 俺は建物に向けて駆け出す。うめき声が聞こえた。角を回り込んで敵と相対する。

 こいつも仮面をかぶっている。ただ、他の仮面の敵より少し背が低い。女性だ。当主のフィーかもしれないと見当をつける。


 建物の隙間は狭い。剣を横に振ることはできない。下半身を狙って剣の切先を突き出す。


 敵は左右の壁を蹴り、空中に舞った。

 砂の攻撃のせいで目が充血している。涙を浮かべながらもこちらを凝視している。両手には何も持っていない。その二つの手を、俺に向けて伸ばしてきた。


 ゾクリと殺意を感じる。

 殺意、気配、それらは魔力の高ぶりだ。


 俺が剣先に霊撃を付け加えたのと同じだ。徒手なのは見た目どおりではない。

 俺に向かって飛んでくる敵の手の先に、光を反射する何かが構築されていく。冷気を感じる。『氷の刃』だ。手から伸びた鋭い切先が俺の喉へと届きそうになる。


 俺は背後に飛んだ。着地した敵がすぐに距離を詰めてくる。刃が到達する瞬間、俺は純粋魔法の物体化で、『氷の刃』の先端を砕いた。


 敵の気配が揺らぐ。驚いているのだ。俺は体勢を立て直す。

 物体化は、魔力の消費が激しいのであまり使いたくなかったが仕方がない。初見殺しの技に対応するには、こちらも代償がいる。修行の最初の頃なら、ここで魔力が尽きていた。


 俺は剣を一閃して敵の仮面を叩き割る。大きな傷がある女性の顔が現れる。当主のフィーで間違いない。ここで格の違いを見せつけ、対話に持ち込むにはどうすればよいか。


 『張りぼての物真似』を発動する。フィーの『氷の刃』を模倣して俺の剣を氷で覆う。そちらの攻撃は見切ったし、魔法も真似できることを、誰にでも分かるように見せつける。

 長く維持できず、すぐに消える仮初めのものだが、それは相手には分からないことだ。


「暗殺組織ジンだな。フロア家に雇われたんだろう。俺はムジカ・フロアの魔法を奪った犯人ではない。俺には犯人の目星がついている。その件について話し合いの席を持ちたい。場所はこの近くのボブの酒場でどうだ。

 あんたらは、無関係の人間の首を持ち帰り、依頼主を騙して賞金をもらう詐欺師ではないんだろう。フィー、あんたは俺の話を聞く必要がある」


 フィーは俺の顔を鋭くにらむ。暗殺組織の当主としてのすごみを感じる。俺は内心びくびくしながら、相手の反応を待った。


 フィーは、道に転がっている仲間たちの姿を見た。俺とココルは誰も殺していない。腕と足は貫いたが、一方的に襲ってきた適切な代償だ。


「ボブの酒場だな。今日の夜、話を聞こう」


 フィーは仲間たちに指示を出して引き上げた。俺は霊魂の目で、他に隠れている敵がいないか調べる。大丈夫だ。しばらく経ち、大きく息をはいて脱力した。


「めちゃくちゃ怖かった。ココル、怪我はないか?」


「大丈夫です。アステル様、また強くなっていないですか?」


 ココルが興奮気味に言う。

 マルが出てきて、ココルにも見える姿になる。


「今の戦いは悪くなかった。おまえの強みでもあり弱みでもある、手持ちの手札で戦う方法がうまくいったケースだな」


「褒めているんだか貶しているんだか。切羽詰まると、ふだんの思考しかできないな。もっと柔軟な思考をしたいところだが」


 とりあえず夜までには時間がある。俺とココルはいったん事務所に引き上げた。


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