14.6 挿話:ムジカ・フロア その2
魔法学校に入ってから分かったことがある。ここは、コネを作る場所なのだ。ほとんどの生徒は、より高い爵位を持つ者と縁を作ろうとしている。
ムジカ・フロアは、同じ学年のメザリア・ダンロスの派閥に入った。実家から金品を送ってもらい、メザリアに捧げて取り入った。
メザリアは高い身分の貴族だ。彼女の体の中には、多くの転生者が入っていた。そして必要に応じて、異なる転生者が顔を出してきた。
派閥拡大の指示を出す者、諜報の報告を受ける者、敵対派閥の力を削ぐ計画を立てる者、一つの少女の体の中に、軍の参謀本部があるようなものだった。
メザリアは転生者たちから情報を共有され、その全てを把握しているようだった。
ムジカの体にも転生者はいた。親が高い金を出して、転生神殿で迎え入れた祖先だ。
しかしフロア子爵家の本流の魔法使いはムジカのために呼ばれなかった。魔法を使えたという一点だけで呼ばれた祖先だった。
あまり意味のない転生者だったが、それでもムジカは感謝していた。魔法の訓練をせずに魔法が使えるようになったからだ。
ムジカは転生後にすぐに、親から与えられた『気づかれにくい』の魔法を使いこなせるようになった。
魔法学校の外に出て、ムジカは『気づかれにくい』の魔法を発動した。この魔法は尾行に役立った。
尾行する相手は、因縁があるアステル・ランドールだ。メザリアの前で無様に倒された。それだけでなく、その後しばらく魔法が使えなくなった。
何とかして弱みを握り、仕返しをしてやろうと決めていた。
すでに何度か尾行をしていた。アステルが通っているのはガゼー地区の貧民街だ。そこにある決闘代行の事務所に入り浸っている。
事務所に貧民の少女を囲っているのも知っている。魔法学校の他の仲間たちも訪れて、何やら密談をしていることも把握していた。
ムジカは尾行が得意である。それは『気づかれにくい』の魔法を持っているだけではない。どこに隠れていればよいのかを把握していることが大きい。
街を歩けば、そうしたところが目につく。自然と目が探してしまうのだ。
ある日、ムジカは一人の痩身の男を見つけた。向こうも誰かを尾行している。しばらく気づかない振りを続けて、誰を尾行しているのか突き止めようとした。
その相手が自分であることを知り驚いた。見知らぬ相手が、ムジカを尾行していた。
あるいはアステルがムジカに気づき、誰かを雇ったのかもしれない。誘い出して返り討ちにしてやる。ムジカは人のいない裏路地に入り、相手が追ってくるのを待った。
しばらく歩き続けたが、尾行者は姿を現さない。気づかれたのか、それとも勘違いだったのか。
引き返そうかとしたとき、意識を刈り取られた。アステル・ランドールにやられたのと同じ状態。ムジカは人通りのない路上に倒れ、通行人が通るまで意識を失い続けた。
貧民たちの介抱を振りほどき、ムジカは魔法学校に戻った。貴族である自分が、貧民たちに施しを受けるなどありえない。平気で交わるアステルがおかしいのだ。
自分の部屋に戻ったムジカは、どこも変わりがないか確かめた。以前、アステルに昏倒させられたときは、魔力が極限までなくなり、しばらく魔法が使えなかった。
今回は魔力がきちんと残っているようだが、何かをされた可能性がある。
『気づかれにくい』の魔法を使おうとした。しかし何も起きなかった。何度か試してみるが魔法は発動しない。転生者を呼び、魔法について尋ねる。
「魔法がなくなっている」
転生者である祖先の言葉が信じられなかった。ムジカは何度も呼んで確かめる。一時間ほど問答を続けたあと、自分が本当に魔法を失ったことを知った。
ムジカは涙を流して絶叫した。そして、自分の部屋で小さくなって涙を流した。




