14.4 張りぼての物真似
俺の周りには、そよ風がぐるぐると回っている。俺は椅子に座り、マルは机の上に立った。
マルは少し机の上を歩き回ったあと話し始めた。
「大魔法使いの塔には百人以上の弟子たちがいた。出自はさまざまだった。純粋に魔法が好きで研究したい者、世俗の栄達のための道具にしようとする者、最強を目指す者もいた。不老不死を目指すと言う者もいたし、死者を蘇らせたいと言う者もいた。
私は能力さえあれば受け入れた。野心や欲望がある者の方が、成果を出せると考えたからだ。気がつくと大魔法使いの塔には、さまざまな才能が集うようになっていた」
俺は、はるか昔にあった大魔法使いの塔の様子を想像する。
「あの頃の魔法は、今の貴族の魔法ほどの力はなかった。領民を使った魔力の供給がなかったからな。魔法使い自身や、暮らしている土地の自然から魔力を得ていた」
マルは遠い時代を懐かしむような表情をする。体も顔も幼女なのに、その瞬間だけとても大人びて見えた。
「集まってきた者の中には、能力の高低があった。それだけでなく、派閥を作るのがうまい者や、周囲の協力を得るのがうまい者もいた。
いつしか平等だった研究のための場所に序列ができていた。
私が頂点だった。その下に何人かの高弟と呼ばれる弟子たちがいた。その下にも、いくつかの階層が作られた。
高弟の一人は、おまえも知っている人物だ。『転生』の魔法使いザラエル。魔法王国ザラエルの創始者だ。
やつはもともと不老不死を研究していた。その副産物として、『転生』の魔法を開発した。
ザラエルは派閥を作るのが得意でな。配下の者たちが、王国の貴族になった。ザラエルは配下に、自身の『転生』魔法を利用する権利を与えた。
この王都にある転生神殿は、『転生』の魔法使いザラエルの権力の源なわけだ」
ザラエルの話は、これまで何度か出てきたから、ある程度把握している。
彼はもともと不老不死を目指していたのか。この王国は、彼の理想を体現した物なのだろう。
「高弟は他にも何人かいた。そのうちの一人に、『複製』の魔法使いタハトという者がいた。ひげを生やした気のいいおっさんで、よく鼻歌交じりに仕事をしていたよ。
タハトはザラエルと逆の思想を持っていた。魔法は独占するべきではない。広く人々に配り、人類の発展に寄与するべきであると。
タハトが作った『複製』の魔法は、そんな彼の思想を体現したものだった。そして、その魔法はザラエルにとって忌むべき物だった。
魔法を独占するからこそ、王国は維持できる。それを自由に複製できたら王国は崩壊する。だからザラエルは、タハトを殺した。毒の入ったワインを送り、亡き者にしたのだ」
いきなり血なまぐさい話が出てきた。俺は思わず身構える。
「タハトの『複製』の魔法とは、具体的にはどのようなものだったんだ?」
「人工精霊の部品作りや、魔力湧出口の作成などを自動化するものだ。膨大な魔力を消費するが、他人の魔法を、そっくりそのまま模倣できて固定化できる」
俺は、思わず反応する。似ている。俺が持っている『張りぼての物真似』に。
「タハトの魔法は、膨大な魔力を注ぎ込まなければ、霊体の形状を模倣するだけで、完璧な複製を作ることはできない。そして魔力が低ければ、すぐに消えてしまう。ふつうの者には使いこなせない魔法だよ。
タハトの死により『複製』の魔法は失われた。……はずだった。いったい、どこかから流出したんだろうな」
マルは俺の顔を見る。
「ザラエルの目を逃れて、これまで発見されてこなかったのは、敵国にあったからだろう。そこでは魔力が低くて、使いこなせず、『張りぼての物真似』と呼ばれていた。それだけでなく『複製』の魔法は一部が壊れていた。
おまえの祖父が得た魔法は、破損した魔法として、多くの魔法使いの目にはガラクタに見えたのだろう。
おまえが真に『複製』の魔法を使いこなすには、おまえ自身が偉大な魔法使いになり、タハトの魔法を修理する必要がある。それは私ではなく、おまえの仕事だ」
俺は、自身が所有している魔法の正体を初めて知った。俺が驚いていると、マルは優しい笑みを浮かべた。
「ザラエルにとって、王国を崩壊させかねない魔法は、誰にも気づかれずに、魔法学校の一年生の手元にあるというわけだ。
おまえの修行が、人工精霊の製造まで進むまでは話す気はなかった。知らずに寿命をまっとうすれば、不幸に巻き込まれることはないからな。
ただ、おまえは気づいてしまった。人工精霊の製造は、『張りぼての物真似』の魔法に似ていると。
おまえの魔法が本当の力を発揮するとき、この王国は崩壊しかねない。
『張りぼての物真似』の正体を外で話せば、おまえは国家の敵として、命と魔法を狙われるだろう」
マルの話を聞いて俺は沈黙した。想像したよりも、はるかにヤバいことを知ってしまった。
俺は家の魔法を使いこなせるようになり、貴族としての存続を認められたかった。
しかし、もし家の魔法を、正しく使いこなせるようになれば、王国の敵として抹殺される可能性がある。俺は自身の魔法の本当の姿を隠し、綱渡りをしながら生きていかなければならないのか。
マルが俺の肩の上に手を置いてきた。
「表では道化の振りをして、裏で実力者として振る舞う。そうした世渡りのうまさが必要だぞ」
俺は何も言えずに、ただじっとしていた。




