14.3 魔力湧出口
翌日の放課後にはだいたい定着したようだ。放課後に自分の部屋にこもり、大きい豚の人形と、中ぐらいの豚の人形を並べて、移行作業に入る。
「緊張するなあ」
これから、大きい豚の人形を破壊する予定だ。壊すと引き返せない。ウルミが作ってくれた人形を壊すのは忍びなかった。
ウルミが貸してくれた鑿とハンマーを使い、大きい豚の人形を割った。無数の霊体の糸を、中ぐらいの豚の人形とのあいだに張り、乗り移るのを待つ。
豚の霊魂が、中ぐらいの人形に乗り移った。まだ安定していないから、また一晩置こう。俺は壊した人形を糊で留めて、本棚の一角に飾った。
翌日も作業の続きだ。豚の霊魂は中ぐらいの人形に定着している。同じように鑿とハンマーで中ぐらいの人形を割り、小さな人形に霊魂を移す。だいぶ圧縮されている。それと見て分かるほど、密度の高い霊魂になっていた。
俺は、これまでの作業を思い出す。
月曜日に肉屋に行き、その足でウルミに人形制作を頼んだ。火曜日に人形を受け取り、豚の霊魂を回収した。水曜日には、大きな人形から中ぐらいの人形に霊魂を移した。木曜日に、中ぐらいの人形から小さい人形に霊魂を移した。
「金曜日に最後の圧縮か。一個だけ作るならこの工程でいけそうだが、たくさん作るのは大変そうだな」
「何でもそうだ。試作品の作り方と製品の作り方は異なることがほとんどだ。それに、ノウハウが溜まる前に最適化するのは危険だ。誤った最適化をしてしまう可能性が高くなるからな」
「しばらくは、のんびりとこの方法でやるしかないか」
俺は、糊で直した豚の人形を棚に収めて、これまでの記録をノートに記すことにした。
◆◆◆
翌日になった。放課後、俺は急いで自室に戻り、扉に鍵をかけた。
今日は誰にも邪魔されたくない。人工精霊を作るための最も重要な工程、魔力湧出口の作成をおこなうからだ。
机の上に、小さな豚の人形を置く。手の指の爪ほどの小さなものだ。
これまでの人形とは違い、壊したら粉々になりそうだ。廃棄するのは悪いなと思いながらも完遂することを決意する。
鑿とハンマーを持ち、狙いを定める。豚の人形を破壊して、圧縮された豚の霊魂を取り出した。
これを極限まで縮めないといけない。俺は両手の指で包み込み、全方向から魔力を注ぐ。豚の霊魂との境界で魔力を霊体化して、徐々に内側へと押しやっていく。
最小限の魔力消費で、最大限の効果を発揮できるように精神を集中する。俺には莫大な魔力量はない。使い切ると回復まで休まなければならない。
魔力を無駄にしないように繊細にあつかう。徐々に豚の霊魂は小さな真珠のように丸くなってきた。
霊魂を縮めれば縮めるほど反発する力が大きくなる。ゆっくりと時間をかけて、抵抗が少なくなってきたら再度圧力をかけるようにしていく。
砂粒ぐらいまで小さくした。まだいける。ほとんど見えなくなったときに、急に手応えが変わった。霊魂の圧力がなくなった。代わりに放出される魔力の量が劇的に増えた。
俺はちらりとマルを見る。これでできたのかと目で尋ねる。
「魔力湧出口ができた。圧力を緩めるなよ。どこかに飛んでいってしまうぞ」
ここまで来て失うのは嫌だ。俺は視線を戻して、次の工程を尋ねた。
「霊体の糸で小さな鞠を作って、その中に閉じ込めろ。その鞠を霊体の糸で何かに結びつけておけ。そうしたら、どこかに飛んでいくことはない」
俺は言われたとおりに、霊体の糸で魔力湧出口をくるむ。そして、机に立ててあるペンの先に固定した。
「これでいいのか?」
「ああ。次は、『そよ風』の精霊の部品を作るぞ。窓の外で吹いている『そよ風』の精霊を模した、霊体の部品を作れ。そこに魔力湧出口を埋め込むんだ」
俺は窓の外に霊体の糸を無数に伸ばす。そして精霊探知で、そよ風の精霊の姿を確かめる。俺は霊体化を使い、自分の手元に同じ形を再現した。
飛んでいかないように霊体の糸で固定して、先ほどの魔力湧出口を埋め込む。十分に馴染んだところで、霊体の糸を解いた。
霊体が安定した。俺が作った『そよ風』を模した霊体は、本物の精霊のように活動を開始する。『そよ風』は俺を親だと思っているのか、俺の周りをぐるぐると回り始めた。
「ははっ、できたぞ。人工精霊だ! 俺は、魔法の階段を一つ上った!」
現代では失われた技術。その大きな工程を乗り越えた。
「おめでとうアステル。おまえはもう、いっぱしの魔法使いだ」
喜びを満喫していた俺は、マルに向き直り、尋ねることにした。
「なあ、マル。この人工精霊を作るのって、似ているよな」
「何にだ?」
「俺の家の魔法『張りぼての物真似』だ」
マルが渋い顔をした。何か問題があったのだろうか。
「そうだな。おまえには魔法使いとして知る権利がある。おまえの祖父が偶然手に入れた『張りぼての物真似』の正体が何なのかを」
急に真面目な顔になったマルに驚く。
マルは俺が、自分の話を理解できる段階になったと思ったのだろう。
俺は姿勢を正して、俺が継承した魔法のこと、そしてマルの身に何が起きたのかを聞くことにした。




