14.2 三匹の豚
魔法学校の宿舎に戻り、ウルミの部屋の扉をノックした。
相変わらず返事がない。何度かノックしたり名前を呼んでみたりする。中に人がいる気配はするので、また鍵を無理やり開けて中に入った。
「ひええええぇ、何ですか! いきなり入ってきて。アステルさんですか。何用ですか!!!」
橙髪に橙目のウルミは、机に向かい、模型を作っていた。
以前来たときに作っていた魔法の模型の続きだ。細かな部品が多く、完成までにはまだ時間がかかりそうな様子だった。
「豚の模型をいくつか作って欲しい」
「豚ですか? 豚の時計でも作るのですか?」
「いや、時計ではない。模型だ」
依り代の話をして、次々と小さな模型に乗り移させる話をした。
「面白いですね~。最初の模型は、どれぐらいのサイズにしますか? 何個作って、どれぐらいの大きさにすればいいんですか?」
それは俺も悩んだ。厳密には実験を重ねないと最適なサイズは分からない。最初は失敗を覚悟して、感覚的な経験則に従うことにした。
「縦横高さの各辺が五分の一ぐらいになるようにしてくれ」
「その根拠は、何ですか?」
「人間の霊魂が人形に宿るという話があるだろう。人形のサイズはいろいろとあるが、人のサイズの四分の一から五分の一ぐらいだ。
おそらく人間は経験則で、それぐらいのサイズに人間の霊魂が宿ることを知っているのだと思う」
「あはー、その感覚分かります。物って、最適なサイズがありますもんね」
ウルミは俺の考えに同意してくれた。
「豚の体長の五分の一は、女性の靴のサイズ程度ですよね。さらに五分の一は、足の親指の長さ程度ですよね。さらに五分の一は、手の指の爪程度ですよね。この三つを作ればいいですか?」
「その三体で頼む。指の爪程度まで小さくなれば、自力で圧縮できると思う。あと、三体の人形は、圧縮の段階で破壊する。そのため、気合いを入れて作り込まないで欲しい」
「了解です。じゃあ、気合いを入れて今晩中に作り込みますね!」
こいつは、人の話を聞いているのかと思った。
「今晩中に作ってくれるのはありがたいのだが、魔法の模型の方はいいのか?」
俺は、作りかけの魔法の模型を指差す。
「時間がかかりますから後回しです!」
本人が納得しているのなら、それでいいのだろう。俺はウルミに模型作りを頼み、自分の部屋に戻った。
◆◆◆
翌日、授業の合間の休みに本を読んでいると、教室にウルミがやって来た。
「アステルさん、注文の豚を三体持ってきましたよ!」
俺の机の上に、どさりと豚の人形を置く。木彫りの人形だ。けっこう作り込んでいる。そこまで気合いを入れなくてもよいと言ったのだが、やはりうまく伝わっていなかったようだ。
周囲の生徒たちが、何事かという目でこちらを見てくる。俺のことを豚マニアと思っているのかもしれない。
「ありがとう」
「もっと、豚が必要なら、また声をかけてくださいね!」
ウルミは、あははと笑って部屋から出て行った。
◆◆◆
放課後になった。魔力湧出口を作るためのリベンジだ。俺は再び学校を出て、豚の人形を詰めた袋を持って肉屋に向かった。
俺は中庭に侵入する。一番大きな人形を出して豚の霊魂に掲げる。豚の霊魂に対して、乗り移り先があることを示した。
さすがに簡単には乗り移ってはくれないか。何か導くための要素が必要だ。
豚の霊魂と人形のあいだに、何本か霊体の糸を通してみる。これで、豚の霊魂が人形を認識しやすくなるだろう。
しばらく待つと、人形の中に豚の霊魂が入った。人形を動かしてみる。まだ定着していないのか、少しずれて霊魂が動いている。
俺は豚の人形を、袋の中にそっとしまった。もう少し時間を置いてから続きの作業をした方がいいだろう。俺は肉屋を離れて、ゆっくりとした足取りで魔法学校に戻った。




