14.1 肉屋の霊魂
――二月中旬。
雪が降る日も、ちらほらとある。田舎ならば、屋内に閉じこもって日々を過ごす。しかし都会である王都は違う。季節など関係なく、多くの人たちが変わらぬ日々を過ごしている。そうした人々の生活を支える食料や生活用品の供給も、多数の商人や職人たちによって続けられている。
魔法学校の授業が終わった。放課後になり、俺は一人で学校を出た。王都の中を移動して肉屋を目指す。先延ばしになっていた、魔力湧出口の作成のためだ。
毎日新鮮な肉を提供している肉屋では、店の裏で豚や牛を殺している。それらの家畜の霊魂が残っているはずだ。
「マル。人工精霊を作るには、霊魂を圧縮して魔力湧出口を作らないといけないんだよな?」
俺は、緑髪に緑目の幼女に話しかける。
「ああ、最初に作る人工精霊には、最低でも一つの魔力湧出口が必要だ」
「部品一個で精霊を作れるのか?」
「最も単純な人工精霊は、そんなものだ。魔力湧出口が一つあれば作れる。何か作りたいものはあるか?」
俺は、故郷の双子の妹たちエリーとマリーの姿を思い浮かべる。魔法学校に来る前に『そよ風』の魔法を真似て見せた。あれは、かなりシンプルなのではないかと考える。
「風の精霊はどうだ?」
「『そよ風』程度なら、魔力湧出口が一つあれば作れるぞ」
「それでいきたい」
俺は最初に作る人工精霊を、『そよ風』にすると決めた。
もう、エリーとマリーに見せた『そよ風』の魔法は忘れてしまった。人工精霊を作り、その魔法を再現したかった。
そのためにも、まずは魔力湧出口を作らないといけない。
俺は気配を消して肉屋に入る。そして、人目を避けて店の裏へと向かった。
肉屋の裏は中庭のようになっていた。この時間はすでに解体作業が終わっているために誰もいなかった。
俺は中庭を観察する。足元は石畳で表面が滑らかになっている。毎日水洗いしてブラシでこすっているからだろう。作業台がいくつかあり、さまざまな道具が乾かしてある。俺は霊魂の目で、家畜の霊魂が残っていないか確認した。
まるで戦場に幽霊がいるように、豚の霊魂がいくつか見えた。俺は顔を動かしてマルに確認する。
「霊魂の圧縮って、魔力で作った霊体で、ぎゅーと押さえ込んでいけばいいのか?」
それだけで、うまくいくのだろうか。
「そのやり方は、かなり難しいぞ。指二本で、豚を丸々一頭押し潰すことを考えてみろ」
「指の方が折れそうだな」
「霊撃での攻撃も、わずかに傷をつけるぐらいだろう。難易度が高いことが分かると思う」
確かにそうだ。押し潰すのは簡単なことではない。
俺自身に膨大な魔力があれば、巨大な手でも作ってコネコネすればいい。そうでないのならば、何らかのうまいやり方が必要になる。
これまでの経験から、何かヒントがないかと記憶を探る。魔像番兵の部品に、金属の立方体が用いられていた。あの立方体は何のために必要だったのだろう。
魔力湧出口だけあればよいはずなのに、物体の部品を使っていたのはなぜなのか。
豚の霊魂は、豚の肉体と強く紐付いていた。肉体が失われたあとは、寄る辺がなくさまよっている状態だ。その状態は安定したものではなく、いずれ形を失って分解する。つまり豚の霊魂は、肉体を求めている状態だと言える。
「魔像番兵の部品の立方体は依り代か。元の肉体よりも小さな器に入れば圧縮される。その状態で器を壊して、さらに小さい器に入るように促せばさらに圧縮される。
何度か工程を経て小さなサイズになったら、そこで初めて自力で圧縮をおこなう。魔像番兵の部品の立方体は、そこまで圧縮率を高めずに、部品として使ったものではないのか?」
「そうだ。膨大な魔力がある人間は力業で作ればいい。そうでない人間は、霊魂の欲求をうまく利用して、自発的に小さくなるようにすればいい。
おまえが考えたやり方は、おそらく、あの場所の魔像番兵を作った作者とは違うだろう。私が採っていた方法とも違う。大切なのは、おまえが自分で方法を考えたことだ。おまえは自力で魔法を作る道に踏み込んでいる」
どうやら俺は、マルに褒められたようだ。少し嬉しくなって笑みを漏らした。
「道具がいるな。もう一度来ないといけないか」
「何でも一発でうまくいくとは思わない方がいいぞ」
「依り代を作るために一度学校に戻ろう」
俺はこっそりと中庭から離れて、肉屋を抜け出した。




