12.4 挿話:パロス先生
魔法学校の校舎は四階建てである。一階に玄関と職員室があり、二階に一年生、三階に二年生、四階に三年生たちの教室がある。また、二階から四階の各階には、教師たちの研究室も並んでいる。
一年の学年主任であるパロスは、二階に研究室を持っている。クラスの担任はしていない。魔法の授業を担当することが多く、一年生だけでなく各学年の生徒を見ている。
部屋には多くの魔法関係の書籍があり、魔法学校における魔法知識の第一人者として遇されていた。
ふだんは魔法についての指導が多いが、そうでないこともおこなう。生徒に問題が起きた場合に個別に指導をする。今日は二つ予定が入っていた。
最初の指導が終わり、お茶を入れて飲んだ。指導は連続しておこなわないようにしている。必ず時間を空ける。生徒同士が遭遇することで、新たな不和が生まれることもあるためだ。
カップを片付け、書類作業をしていると扉がノックされた。
「どうぞ」
声をかけて、中に入るように促した。
扉が開き、銀色の長い髪に灰色の目の少女が入ってくる。ダンロス公爵家の令嬢、メザリアだ。パロスは、椅子に座るようにメザリアを促した。
「どういったご用件でしょうか?」
メザリアはパロスをまっすぐに見て尋ねる。パロスは、先ほど面談をしたアステルとグラノーラのことを思い浮かべながら話し始める。
「メザリア、きみが入学して以来、派閥作りにいそしんでいるのは知っている。その派閥の活動が、最近少し行きすぎではないかという話をちらほらと聞いている。
仲間を募ることは問題ないが、同じ学校に通う他の生徒を排除するような活動をしているのならば問題だ。改めるべきだと考えている」
メザリアの表情が変わった。少女のものから、老練な何者かのものになる。
「パロス。きみの爵位は何だ?」
転生者だ。メザリアの中に、複数の転生者がいることは把握済みだ。
「魔法学校の中では世俗の爵位は意味を持たない。私は教師として、メザリア、きみと相対している」
パロスの言葉を聞いて、メザリアの表情が変わる。口元の形が違う。先ほどとは別の転生者が表に出てきたようだ。
「きみの素性は調べている。この国で生まれた人間ではないな」
「どうやって、魔法学校の教師になった?」
口を開くたびに、異なる転生者が出てくる。ダンロス家の人間たちはみんな、爵位を持たない人間を蔑んでいるようだ。
メザリア自身がどうかは分からない。しかし、彼女の中にいる転生者たちは、みんなプライドが高いのだろう。
「私はメザリアと話をしたいのだ。死してなお現世にしがみつく亡霊たちに用はない」
無数の罵倒の声が、さまざまな口調で浴びせられた。パロスは臆することなく正面から受け止める。メザリアの体が疲れて罵倒が収まったところで、パロスは再び口を開いた。
「メザリア。きみは一日のうち、どれぐらい自分の意思で決断をしている?」
メザリアの表情が少女のものに戻る。口をつぐんで下を見ている。メザリアは、年相応の反応を見せていた。
「この国の転生制度はいびつだ。高い身分の者ほど、自我を保てないほど転生者を受け入れる傾向がある。まるで古い者たちの器のように、今の者たちが使われている」
メザリアは目に涙を浮かべていた。
「もう、退出してよい」
パロスの言葉を聞き、メザリアは部屋を出る。パロスは窓辺に寄り、魔法学校の敷地を歩く生徒たちをながめる。
「いびつな国だ。魔法を世襲の道具として使い、歴史を止めている」
パロスは、かつて住んでいた故郷を思い出す。細々とではあるが、大魔法使いの塔の後継者たちが住んでいた。そこには本物の魔法使いたちがいて魔法を作っていた。
「時計の針は、マルテシア・マルルマールで止まっている」
大魔法使いが消えるとともに魔法の発展は止まってしまった。
自分の席に戻ったパロスは、再び書類仕事を始めた。




