12.3 大魔法使いの事跡
その日の仲良し同盟のお茶会は、挨拶だけで終わった。
青髪に眼鏡のニーナは、ウルミのような人間のあつかいに慣れているようだった。きっと取引先に、こういう感じの職人がいるのだろう。
ウルミの魔法は、ニーナの魔法と同じように貴族から手に入れたものだった。ウルミの祖父が、商品の支払いができなかった貴族から譲り受けたそうだ。
おそらくその貴族にとっても使えない魔法だったのだろう。貴族が『取り外し』の魔法を重用していたとは思えなかった。
解散したあと俺は自分の部屋に戻り、机に向かった。パロスに借りた本のタイトルを確認する。
マルが出てきて、机の上に立った。
「『大魔法使いの事跡』か。アステルよ、おまえは私の事跡に興味があったのか?」
「違う。当たり障りがない本を選んだんだよ。本当は『魔力還流理論』とか『精霊解体新書』とか、そういう名前の本の方がよかったんだが、こちらの興味を悟られてしまうだろう」
「ほうほう、私に興味がありすぎて、それらを諦めたと」
今日はウルミで面倒くさい思いをしたが、今度はマルが面倒くさい感じになってしまった。
「いいから静かにしろ。俺は本を読む」
「くくく、私の事跡を読むがいい!」
俺はマルを無視して、借りた本を読み始めた。
数時間が経った。
本を読み終えた頃には、深夜もかなり回った時間になっていた。
無言で本を読み続けたため、マルは消えていた。マルがいないことを確かめて、俺は最後の数ページを読み直した。
――大魔法使いの塔は、ある日を境に忽然と消えた。多くの魔法使いが、その日以降目撃されていない。消えなかった者のほとんどは、ザラエルに従って王国を築いていた者たちだった。魔法の黄金時代は終わったのだ。
机の上に置いた蝋燭の火が揺らいでいる。俺は本を閉じて考えた。
マルは、自分の死について語っていない。俺もあえて聞こうとはしてこなかった。辛い過去がある可能性もあるからだ。
俺はパロスのことを考える。パロスは、こうした魔法についての歴史を知っている。そして、俺がマルに習ったような知識を集めている。彼は俺たちにウルミという人材を紹介した。
「あの先生は何者なんだ?」
魔法という森に分け入った先に、知らない集落を見つけたような気持ちになった。
いったい、あの先生は、どこまで魔法のことを知っているのだ。そして俺たちの活動について、どこまで把握しているのだ。
俺は蝋燭の火が揺らめく部屋で、腕を組んで無言で考えた。




