11.5 挿話:魔法具商人
魔法王国ザラエルの王都には、魔法具商人と呼ばれる、特殊な商品をあつかう者たちがいる。
彼らがあつかう商品は、魔法の道具だ。遺跡などから発掘された「魔法を使える道具」を買い取り、必要とする者に売る。魔法具商人は、そうした商売をおこなう。
魔法具商人を家業としておこなっている者はほとんどいない。ほとんどは貴族崩れの人間たちだ。
借金のカタに魔法を売った者。あるいは、五男、六男などで、継ぐべき魔法がなかった者。そうした、魔法のことは分かるが魔法を持っていない者が、魔法具商人の道を選ぶ。
魔法具商人は、商品である道具を見極められなければならない。本当に魔法が使えるのか、自分で試して値付けをする。そのためには、魔法を発動できなければならない。
また魔法具商人は、魔法具の売買について理解していなければならない。魔法具の売買について理解するには、魔法の売買についての知識が必要だ。
貴族と商人のあいだでの魔法の売買は、公然とおこなわれているが違法である。爵位を売るに等しい行為だからだ。
建前上、永代貸与という書類を作る。売値の十倍の金額を払えば返却するという契約だが、その金額が支払われることはまずない。
魔法具も、本来は国家の所有物であるが、拾得者優先貸与という仕組みがあり、探し出すことは奨励されている。探し出した者は、書類を提出することで魔法具を貸与される。
何度も売買された魔法具は、拾得者優先貸与から始まり、何枚もの永代貸与の書類が付属する。これらの書類がない場合の所持は違法となる。
もちろん裏社会では偽造書類が横行している。
このように魔法具は、表通りでショーウィンドウに飾って売買する商品ではない。金庫や蔵に厳重に保管され、書類とともにやり取りされる。
広い王都でも、独立した魔法具屋を開いている者は数えるほどしかいない。
ほとんどの場合、魔法具商人は大商人の食客となっている。大商人は、貴族の血縁者を魔法具商人として抱えて、貴族と繋がりを持つ。
ニーナの生まれたシャントン家でも、そうした魔法具商人が数人いる。
ニーナは、魔像番兵の部品を入手したことを、シャントン商会の魔法具商人に相談した。表立っての相談ではなく、世間話としての相談だ。
「ニーナお嬢様。効果のない魔法具の所持には、書類は必要ありません。
もしそうした部品に書類が必要なら、魔法具が壊れてばらばらになったときに困ります。破片の数だけ書類を作ることになりますから。だから免除されているんです」
ニーナは安心した。シャントン家の情報を使って手に入れた品物だ。何か問題があったらまずいと思っていた。
「それにしてもニーナお嬢様は、優秀な魔法使いと組んで活動されているようですね」
商会の部屋で魔法具商人は感心したように言った。
「そうですね。勉強させてもらっています」
ニーナは嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、どうやって魔法具の部品を見つけたんですか?」
元は貴族の魔法具商人は、興味深げに尋ねた。
「これは秘密なんです。仕入れの情報って貴重ですから」
「いやはや、さすがシャントン家のお嬢様だ」
魔法具商人は笑い声を上げた。そして真面目な顔をしてニーナに言った。
「もし機会があれば、ぜひ教えてください。いつでも力になりますから」
ニーナは笑顔を返したあと、魔法具商人と別れた。




