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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第11章 遺跡と遺物

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11.4 立方体と矢印

 遺跡探索に行った翌日、俺たちはガゼー地区の貧民街にある事務所に集まった。

 メンバーはいつものとおりだ。俺とグラノーラとココルとニーナ、そして俺の中に共存しているマルだ。


 暖炉に火を入れて部屋を暖める。ココルは俺がいないと寒いままで過ごす。以前に薪代は気にしなくてよいと言ったが、寒くても気にならないと答えた。

 路上生活をしていた頃ではなく、今は俺という後継人がいるのだから、健康にも気を使って欲しいのだがと思った。


「遺跡で入手した立方体だ」


 俺は机の上に立方体を置く。全員で椅子に座り、取り囲んで観察する。


 以前、俺がマルに尋ねて答えてもらえなかったのは、魔力の出所だ。

 長時間安定して存続する霊体は、強弱の違いはあれ魔力を放出している。放出された魔力は拡散して消えていく。この循環の仕組みが分からない。


 マルの話から考えれば、人工精霊にもこの仕組みが組み込まれている。そして、人工精霊を使って作った魔法の道具を調べるのが近道だということになる。


「うーん」


 俺は腕を組んで唸る。

 グラノーラは、早々に諦めてパンを食べている。ニーナは眉を寄せて観察しているが、何も思いつかないようだ。ココルは、筋トレを始めている。

 まあ、これは俺への課題だよなあと思い、知恵を振り絞る。


「なあ、マル。魔力は現れて消えるのか、それとも循環しているのか、どっちなんだ?」


「前者とも言えるし、後者とも言える」


「何だよ、意味不明かよ」


 俺は机に肘を置いて頬杖を突く。そして、立方体と重なっている人工精霊の霊体をながめ続けた。


 うん?


 不可解なことに気づいた。


「ちょっと、机をどけるぞ」


 俺は立方体を回収して、机を部屋の隅に移動する。そして部屋の中央の床に立方体を置いて、チョークを取り出した。


 立方体の向きを整えて、魔像番兵の腕の霊体を床に置く。そして、真上から見た魔像番兵の腕の輪郭を、床に描いた。立方体と肩の位置が重なっている。

 次に、魔力が放出される向きを、何本もの矢印を描いて床に記入していった。


「何をしているのアステル?」


 パンをつまみながら、グラノーラが尋ねてくる。


「矢印の形を見ているんだ」


 グラノーラが俺の横に顔を並べて床を見る。


「立方体の位置から外に向かって広がっているわね。これがどうしたの? 放出されているから、当たり前じゃない」


「人間はこの形にならない。おそらく動物も」


 俺は卓上黒板を出して、人のシルエットと矢印を描く。矢印は、シルエットの表面からそれぞれ直角に出ている。全体としては、シルエットの形をなぞって周囲に広がっているように見える。


「天然の霊体は、その表面から魔力が全体的に染みだしている。人工の霊体の部品は、一点から魔力があふれ出している。まるで穴のように。

 おそらく魔力が内部からあふれ出るのが安定化の条件だ。人工精霊や魔法再現器の部品は、この魔力が出る穴を組み込むことで、自然の魔力流出の代用としている」


 俺はマルに答え合わせを求める。マルは、半分正解で半分不正解だと言った。


「どう違うんだよ?」


 せっかく答えにたどり着いたと思ったのに。ケチをつけられた気がして、俺はむっとした。


「あれは穴ではない。人間や動物の霊魂を極限まで縮めて圧縮したものだ。

 一定以上のサイズに圧縮すると、霊魂は無個性の魔力湧出口になる。その湧出口を組み込むことで、人工精霊や魔法再現器の部品を安定化させるんだ。


 この魔像番兵は部品の点数が少なく、一つの部品が大きい。だから分かりやすかった。魔法の道具は、部品が大きいものが多い。その方がコストが安いからな。その代わり、できることは限られている。

 対して、魔法に使う人工精霊は部品が多い。部品点数が増えれば、天然の霊体と同じように魔力が染みだしているように見える。

 放出された魔力は、徐々に小さくなり裏の世界に消える。そこで循環して、再び表の世界に湧き出てくる」


 マルは得意げに言う。

 さらっと説明したが、凶悪な話をしたことを俺は聞き逃さなかった。


 部品には魔力湧出口が必要だ。その魔力湧出口を作るには、人間や動物の霊魂が必要だ。

 大量の部品で構成された人工精霊を作るためには、どれだけの人間や動物の霊魂が必要なのか。

 マルが生きていた時代に、どれだけの命が必要だったのかと思うと背筋が凍った。


「なあ、マル。一つの全自動魔法を作るのに、どれくらいの人間や動物の命が必要なんだ?」


 この先、魔法の学習を進める上で避けて通れない問題だ。


「一つの全自動魔法を作るのに必要なのは、人間なら数人から数百人、動物ならどの種類を選ぶかによる。一つの命から作れる魔力湧出口は一つとは限らない。その命が持っていた魔力の器のサイズによるからな」


 俺は青い顔をする。人間の大量虐殺を想像したからだ。


「はははは、そんな恐ろしい顔をしなくてもいいぞアステル。人間を使ったりはしていない。

 当時は魔獣狩りが流行った。たとえばドラゴンを倒せば、大量の魔力湧出口を作れる。おまえが倒したクマの魔獣でも、けっこうな数が作れるぞ。

 おかげで魔獣は激減した。この時代にあまり見かけないのは、そのときの乱獲が尾を引いているのだろう」


 人間の大量死はなかった。とはいえ、多くの命が失われたのは事実のようだ。


「これから先、魔法を自分で作るには、大量の命が必要というわけだな」


「本当は他の方法もあるんだが、今の学習の段階としては、そう思っておいた方がよい。私が最初に作ったときも、動物の命を利用したからな。生贄というやつだ」


 俺は不快な顔をする。


「心配するな。当時よりも今の方が簡単だ。昔はこんなに大きな街はなかったからな。この王都を維持するために、いったいどれだけの家畜が日々殺されていると思っているんだ」


「あっ」


「魔力湧出口を作るために、わざわざ生贄の動物を殺す必要はない。日々殺されている家畜の霊魂を使えばいいだけだ」


 なるほどと思った。


「アステルは、次の段階に魔法修行を進めることができる。他のメンバーは、精霊魔法を習得するところまで追い付いてくれ」


 グラノーラたちは、なかなか大変だという顔をして、はいと返事をした。


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― 新着の感想 ―
普段は意識しないけれども、毎日沢山の家畜を我々は食べているのですね。スーパーに並ぶ発泡スチロールトレイのお肉を見ても、なかなか家畜まで想いが行かないのは、考えてみれば罪深いものです。
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