11.2 遺跡と土鬼
――一月中旬。
遺跡探索当日は、早朝に魔法学校を出た。風が冷たい。はく息は白く、今が冬であることを強く意識する。
シャントン家の商館で、赤髪のココルと合流して馬車で出発する。
御者はまたニーナがおこなってくれた。俺たちは三時間の馬車の旅を楽しむ。
街道から支道にそれた。しばらく進んだところで道を外れて平原に入る。目指す遺跡は、山の麓にある。
俺は調べた情報を思い出す。入り口には石作りの建物の残骸があり、その奥に洞窟があるはずだ。
遺跡の入り口の残骸には土鬼が住んでおり、たまに近くの街から討伐隊が繰り出されるという。
蹴散らしたあとしばらくすると、どこからともなく集まってきて、再び数十匹が住みつくという。
「土鬼って、マルの時代からいたのか?」
本で調べた知識しかないので尋ねる。
「いたなあ。人間より頭一つか二つほど小さく、分厚い皮膚で覆われている。膂力は人間よりあるし、知能もそこそこある。武器は持っているが石の槍や斧、石鏃の弓が多い。たまに金属の武器を持っているが、それは略奪品だ。
人間に近い種族だが、繁殖力が強く、成長までの期間が一、二年と短い。その代わり、寿命も四、五年と短い。
集まって拠点を作り生活するが、自分たちでは作物を育てないので、ある程度以上の集団にはならない。狩猟採集と略奪で糧を得るが、略奪を始めた段階で討伐されることが多かったな」
「遺跡にいるのは何でだ?」
俺は疑問に思ったので尋ねる。
「遺跡というのは、人が住んでいた場所だ。人が住んでいた場所は、水が得られる場所のことが多い。
今から行く遺跡は、かつて魔法の道具が出ていた。私は、魔法使いの研究施設だとにらんでいる。魔法使いも人間だから、不便で不快な場所を選ぶはずがない。便利で快適な場所を選ぶはずだ。
それなら土鬼にとっても生活しやすいだろう」
「そりゃあ、そうか」
とりあえず、遺跡に巣くっている土鬼を排除しないと先に進めない。俺とココルで効率よく排除する計画を立てた。
◆◆◆
遺跡が見えてきた。なだらかな丘の中腹に、石造りの柱と壁の残骸があった。俺は調べた情報から、往時の姿を想像する。
小さな神殿のような住居が建っていた。そこから地下に道が延びて、研究施設に繋がっている。地下に研究施設を作ったのは、情報を秘匿するためだろう。作ったものを貯蔵する意図があったのかもしれない。
遺跡の周りには、わずかに雪が積もっていた。前日にでもちらほらと降ったのだろう。何者かが動いている姿が見えた。遺跡に誰かがいることが確認できた。
遺跡から少し離れたところに馬車を停めて、俺とココルが下りる。グラノーラも同行したがったが、ニーナが襲われたときのために残した。
俺とココルは気配を消す。二人で木々や草むらを伝っていき、詳しい様子が確認できるところまで近づいた。
土鬼の数は二十匹だ。大人が八匹、子供が十二匹。最も大きいのがボスだろう。
全てを殺害する必要はない。今日は弓矢を持ってきた。弓矢の方が霊撃よりも射程がある。最大の個体をまずは倒して、敵の戦力を削ぐことにしよう。
ココルは弓矢は素人だ。俺は領地の野山で狩りをしていたから慣れている。弓を引き絞って矢を放つ。廃墟にいた大きな一匹が倒れる。その様子を確認して、すぐに場所を移動した。
土鬼は柱と壁に隠れて、矢が飛んできた方を窺っている。その隙に、移動後の場所から見える別の一匹を葬った。気配を殺したまま、さらに移動して観察する。
さすがに、外から見える場所にはもう姿をさらさないか。
威嚇のために矢を一本射ち込む。これで三つの方向から矢を射かけた。俺たちのことを討伐隊と誤認して、逃げてくれることを期待する。
矢を射ち込んだのは、四方向のうち三方向だけだ。逃げるための道は空けている。
もう一押しが必要か。ココルに手で合図を送り、遺跡に接近する。霊撃が届く距離まで迫ったところで、壁越しに俺とココルで二匹を昏倒させた。
敵の数を二割削いだ。これでどうだ。
気配を探る。慌ただしく動いている。撤退のために荷物をかき集めている。
敵陣に飛び込もうとするココルを制した。敵を制圧するのが目的ではない。ここから数日立ち退いてくれれば十分だ。お互いに無駄な戦闘をする必要はない。
土鬼たちが遺跡を離れて駆け出した。霊魂の目で隠れている者がいないかを探る。大丈夫だ。壁の向こうに行き、昏倒している二匹を殺す。そして、合計四匹の土鬼から魔力を抜き取って補充した。
「ココル。お嬢たちを呼んできてくれ」
「はい!」
ココルを走らせ、俺自身は土鬼の野営地を観察する。獣の骨や皮、木の実や果実の食べかすが散乱している。略奪品もあった。短剣や木製の盾といった武具。人間の骨もある。
金目のものは見えない。この周辺には富が集約された街はない。略奪しても貴重品が奪えるわけではない。そもそも土鬼が金品を欲しがるのかという疑問もある。
「アステル、来たわよ!」
グラノーラの声が、馬車の音とともに響いてきた。ニーナが馬車を停めて、グラノーラが勢いよく降りる。
「入り口は、どこにあるの?」
俺は廃墟の一ヶ所を指差した。地下へと斜めに続く穴がある。昔は石積みの入り口があったのだろう。今では土が露出しており、雑草が生えていた。
「あそこだろうな。松明を点けて、鳥かごを持って入ろう」
人がふだん入っていない場所だ。悪性のガスなどが溜まっている可能性も捨てきれない。先頭は俺、その次はココル、その後ろにグラノーラとニーナが続いて、洞窟に足を踏み入れた。




