10.7 挿話:ガゼー地区の顔役ラパン その2
ラパンは部下たちからの報告で、新しいトラブルが起きつつあることを知った。
白面症という、病気か毒か分からないものだ。
街を歩いていて針で刺されたという明確な原因がある。発生場所はガゼー地区だけでない。王都全体だ。
子供が絞殺されていた事件を思い出す。あの事件は、決闘代行事務所のアステルが、ひとまずの解決にこぎつけた。
まったく異なる事件だが、同じにおいを感じた。アステルに振るのが適切なように思えた。ラパンはココルを呼んで、アステルへの伝言を頼む。ココルはラパンのもとまで来て、確かに伝えると言った。
ラパンのもとには、アステルについての情報が集まってくる。
いつも行動を共にしているのは、フルール伯爵家の令嬢グラノーラという少女らしい。また、富商シャントン家の息女も連れているという。
ガゼー地区で事務所を預かっているココルも、この地区では有数の剣士である。
ランドール家のアステルは、なかなかの手駒をそろえているように見えた。
最近では、ラパンの古い友人たちが酒を持って訪れることが多くなってきた。どこからともなく、アステル・ランドールの話を聞き、かつての演劇の英雄について語っていく。
四十代以上の人間にとって、ランドールの名前は特別な輝きを持つ。特に、あの時代に演劇に携わっていた人間にとってはなおさらだ。
新しい興行は打たないのか。
かつての記憶が残っている者たちに受けるのではないか。
ラパンは、それらの話を全て退けている。アステルは、魔法学校で魔法の修行をしている。剣の道に生きるつもりはないらしい。
実際にアステルに会ったときの印象もそうだった。剣で身を立てるつもりはない。出世を望むタイプでもない。
そうした若者の未来をいたずらに弄ぶものではない。
ラパンはかつての演劇関係者たちを諭して帰らせていた。それとともに痛感していた。
イシュア・ランドールは、今でも人気なのだなと。
南方戦役とその凱旋は記憶に鮮明に残っている。
百人長として従軍し、マガス大国の王を一人で討ち取った剣の達人。
この国で貴族になるには、魔法使いになるしかなかった。それは剣の達人だったイシュア・ランドールにとって悲劇だっただろう。
アステル・ランドールはどうだろうか。
彼は剣については達人の域であることは間違いない。おそらく、ガゼー地区の誰よりも強いだろう。上位数名に属するココルを倒したことからも間違いない。
彼は魔法使いを目指している。
ラパンはその道は、茨の道だと考えていた。




