10.6 事後処理
俺の怒りが収まるのを待って、マルが話しかけてきた。
「アステル、おまえにはライバルがいるぞ。単眼鬼のやつも本物の魔法使いを目指しているのかもしれない。そして、おまえより一歩先んじている。単眼鬼は、すでに人工精霊を作り始めているのだからな」
マルは真面目な声で言った。俺は口を閉じたまま考える。
「マル、この魔力を集める魔法はどうする?」
無数の糸が繋がっている人工精霊を指差す。
「壊せ。そうすれば魔力を奪われていた者たちは徐々に回復する。打ち込まれた魔法は、まあ放っておいてもよいだろう。あれ自体で何かの動作をするわけではないからな」
「壊すのか。もったいないな」
「心配するな。おまえもいずれ自分でこうしたものを作れるようになる」
俺は霊体をまとわせた斬撃で魔法を何度か斬り付けた。
魔法は壊れて稼働を停止する。マルの話では、糸はふっつりと切れて、氷のように溶けて消えたそうだ。
◆◆◆
事後処理は大変だった。傍目からは、俺がお針子たちの工房に乱入して、中年女性のお針子を殺したようにしか見えなかったからだ。
女性がすでに死んでいて、誰かに操られていたこと、それを察知した俺が呪縛を解き放ったこと、そうしたことを納得させるために数日を費やした。
幸いなことに、俺は中年女性の体を直接剣で傷つけていなかった。そのため、俺の主張は衛兵たちを納得させることができた。俺が貴族であること、グラノーラの実家であるフルール伯爵家の後ろ盾があることも役に立った。
ようやく落ち着いたタイミングで、俺たちは事務所に集まり、お茶会を開くことにした。
「ココル、腕は大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
ココルは俺が『張りぼての物真似』で治したあと、グラノーラにきちんと傷を治してもらえた。
応急処置が功を奏したのだろう。後遺症もなく、切断前の状態に戻ったそうだ。
俺は単眼鬼が魔法を作っていたことを全員に告げる。そして、マルから話があると伝えた。
マルは机の上に姿を現して一同を見回す。
「今回、アステルが敵の体の一部を入手した。解析した結果、私が用いている『霊魂義体』を応用したものだと分かった。そして魔法の部品に、私が生きていた時代にはなかったものが用いられていることも判明した。
私が生きていた時代から五百年、新しい魔法が萌芽している。私の魔法を発展させた者がいる。この時代にも、本物の魔法使いを目指している者がいるということだ。そして、その相手は、この王都で何かをしようとしている。
やつは再び、おまえたちの前に立ちはだかるかもしれない。そのときに備えよ。各々の技術を磨け。以上だ」
グラノーラ、ニーナ、ココルはうなずいた。俺は少し考える。
敵はいったい何者なんだ。そして何を目指しているのだ。
単眼鬼のやつは、マルのような大魔法使いになりたいわけではないだろう。それなら何になりたいんだ?
分からなかった。
推測するには情報が決定的に足りなかった。




