10.5 魔力供給
俺は、白面症の元凶の敵と戦っている。ココルを叱咤して立ち去らせたあと、マルが出てきて口を尖らせた。
「おいおい、私の孫弟子にひどい口の利き方だのう」
その余裕ぶった物言いに、俺は腹が立った。
「おい、マル、協力しろ! このままでは俺も死ぬぞ!」
俺は自分の命を盾にマルを脅す。
「魔力がほとんど残っていないな。このままでは、私も出てこられなくなるぞ」
俺は冷や汗をかく。マルの『霊魂義体』も、よくよく考えると俺の魔力で動かしているのか。
「まずは魔力を補充しろ。建物内の魔法に近づき、そこから魔力を奪え」
俺は窓から屋内に飛び込んだ。机と椅子が並び、お針子の女性たちが作業をしている。
鋼線を操る中年女性が出入り口から追ってくる。そりゃあ、そうだよなと思いつつ、どう対処するか考える。
魔力を奪う隙を作らないといけない。それに、ここで敵に暴れられたら、お針子たちが全員切り刻まれてしまう。
俺は雄叫びを上げながら敵に駆け寄る。声は敵に聞かせるためではなく、お針子たちに聞かせるためだ。
鋼線が何本か襲いかかってくる。それらを剣で弾いて距離を詰める。狭い空間のせいで、敵の攻撃が単調になっている。
剣で攻撃すれば殺人の容疑をかけられてしまう。俺は掌底の打突で、敵を屋外へと叩き出した。
あばらの二、三本は折ったはずだ。俺は「逃げろ!」と叫ぶ。お針子の女性たちが、悲鳴を上げながら建物の別の出口へと殺到する。
俺は人工精霊に駆け寄り、マルを呼び出した。
「魔力の供給先を俺に変えてくれ。敵の魔法の力を下げて、俺の魔力を補充する」
「分かった」
一瞬意識が途切れる。再び意識が戻ると、眼前に中年女性が迫っていた。マルが体を使っていたのは一秒か二秒といったところだろう。
敵は鋼線を放ってきた。剣で弾く。今までよりも明らかに軽い。
余裕ができたので相手を観察する。眼球は動かない。肌の色は血色がない。また死体を操っているのだろう。それならば、体から弾き出してやるまでだ。
俺は供給される魔力を使って霊撃を放つ。いつもよりも強力なやつだ。
敵の姿が二重にぶれた。二撃、三撃と連続で放つと、中年女性の体が床にくずおれた。
俺は霊魂の目で、相手の姿を認識する。肉体を持たない人型の霊体。敵は俺に怒りの感情を向けている。
精霊探知を使わずに見えるのは、マルの『霊魂義体』と違って、霊体の濃度が人間の霊魂並みに濃いからだろう。
ここで、けりをつけてやる。
俺は剣に魔力を込めて霊体で覆う。そして人型の霊体へと斬り付けた。
跳ねるように敵は避ける。手応えはあったが胴を両断できなかった。刃が当たった場所は右足だった。両腕と一本の足で敵は器用に逃げていく。
俺は追おうとする。建物から出ようとしたところで魔力の供給が切れた。
「おい、マル!」
俺は振り返って苦情を言う。
「やっつけ仕事だからな。外れてしまったみたいだ」
マルは当然のように言う。
「敵を追う!」
「やめておけ」
俺はマルをにらんだ。
「おまえも成長しているが、敵も成長している。魔力の供給なしでは危ういぞ」
マルの言葉を無視して追おうと思ったが諦めた。マルの言うとおりだ。強化なしでの力は五分五分。俺が生きて帰れる保証はない。
「それよりも、でかしたぞアステル」
マルは、俺が切り落とした敵の右足を拾う。
「敵は足を残して消えた。この足が魔法で作ったものなら、いろいろと情報が分かる可能性がある」
俺は解析をマルに任せる。しばらく待つとマルが結果を教えてくれた。
「やはりな。あの霊体の体も、魔法として作られたものだ。私の『霊魂義体』と基本は同じだが細部が異なっている。私の時代にはなかった部品が見られる」
マルは嬉しそうに口元を上げる。マルにとっては喜ばしいことかもしれないが、俺は怒りが込み上げてきた。魔法のために、誰かを犠牲にしていいわけではない。
「マル、やつは何をしていた?」
俺は剣を鞘に収める。
「魔法の部品がいくつか残っている。やつはここで魔力を集め、その魔力で魔法の部品を作っていた」
「何を作っていたんだ?」
「分からん。ただ、作った部品は、別の場所に運んでいたのだろう。この場所がばれたときの保険のために」
「じゃあ、アジトは別の場所にあるのか?」
「そうなるな」
「ちっ」
取り逃したのが痛い。
俺はいら立ちとともに地面を蹴った。




