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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第10章 赤い糸

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10.4 切断

 俺とココルは、白面症を引き起こした犯人を追って、霊体の糸の先にある服飾工房にやって来た。

 俺は微細な霊体を放ち、霊魂の目で建物の中を索敵する。数人の女性がいて作業をしている。糸の延長線上に人間はいない。糸は途中で消失していた。


「どうなっているんだマル?」


 糸を見ているマルに尋ねる。


「あれは魔法だ。おそらく人工精霊だろう。かなり単純な構造に見える。何の魔法なのかは、もっと近づかなければ解析できない」


「他の糸は見えるか?」


 被害者は多くいる。全ての糸が集まっているのならば、ここが敵のいる場所で間違いないはずだ。


「少し待て」


 容易には見えないのだろう。


「集まっている。あの魔法に全て繋がっている」


 マルが答えた直後、建物から一人の中年女性が出てきた。

 俺は中年女性の顔を見る。目が前を向いたまま一切動いていない。単眼鬼だ。そのことが直感的に分かった。


「魔法を持っているぞ!」


 マルが叫ぶと同時に、俺とココルは剣を抜いた。

 空中に線のようなものが複数見えた。何か分からないまま、剣の峰で全て弾き返す。


 線が剣に触れた瞬間、わずかに火花が散った。また、線に触れた壁際の木箱が真っ二つに割れた。壁と地面のあいだにあった雑草の葉は、鋭利な断面で切断されていた。


 何だ? 記憶の中から攻撃の方法を探る。

 切断する魔法? いや、目視できる線が見えた。火花が飛んだということは物体の接触だ。


 魔力を奪う糸の根元には人工精霊があった。マルの言葉から推測すると、自作の魔法だ。

 針。糸。敵の思考を推測する。そうしたものの延長として、線に見える、切断するための武器を想像する。


「鋼線だ」


 細く強く鋭利な金属の糸を錬成している。

 そんなことが可能なのか? メザリア・ダンロスは鉄槌を瞬時に生成した。それに比べれば質量は軽く、形状は呆れるほど簡単だ。


 視界の隅でココルが動きを止めていた。利き腕の手首から先が切断されていた。肉と骨の断面が見えて俺は戦慄する。ココルは青い顔をして懸命に痛みをこらえている。


 魔法の内容が単純だからか、想像以上に殺傷力が高い。目の前の中年女性は、膨大な魔力を持っているようには見えない。自然放出する魔力を抑えて魔力を少なく見せているのか。いや、そんなことをしているようにも見えない。


 魔力の供給を受けている。屋内の魔力収集の魔法と接続している。だから高出力で、ココルの手首を一瞬で切断するだけの攻撃を放てている。


「ココル、大丈夫か?」


「い、痛いです」


 ぼろぼろと涙をこぼしながらココルは答える。


「ココルが手首を切断された」


 『音声伝達』の魔法でニーナに伝える。悲鳴が耳に響いてきた。

 くそっ、叫び声もそのまま伝達されてしまうのか。注意を削がれてしまう。


「黙れ!」


 鋭く言うと悲鳴が止まった。ニーナは、慌てて口でも押さえたのだろう。

 ココルをどうするか。助けてやりたいが、そんな隙は敵にはない。


 隙さえあれば、『張りぼての物真似』で、先ほど見たグラノーラの『癒やしの手』を真似して治療できる。しかし、そんなことをする余裕はまったくなかった。


 一歩踏み込もうとしたが、鋼線の攻撃が飛んでくる。軌道を読んで剣で叩き落としたが、近づくことまではできない。

 俺が建物に飛び込めばココルが殺される。ここで鋼線を受け続けてもジリ貧だ。このままでは、蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように捕食されてしまう。


「ココル、落ちた手首を拾え!」


 従うだけの理性は残っているようだ。ココルは手首を拾った。


 考えろ。俺は思考を巡らせる。

 グラノーラを連れてきた方がよかったか。いや、その場合は初撃の不意打ちでグラノーラが殺されていた可能性もある。

 グラノーラのいる場所に走らせるか。しかし、そのためにも隙が必要だ。


 俺の霊撃で屋内の魔法を壊せるか? 魔法の破壊は試したことがない。ぶっつけ本番でやってみるしかない。


 俺は鋼線を弾きながら狙いを定める。そして屋内の魔法に向けて霊撃を放った。

 破壊することはできなかった。しかし、魔力の供給は一瞬止められた。鋼線がふわりと消える。この隙を待っていた。


「ココル、落ちた手首の断面をぴったり合わせろ!」


 ココルは手首の傷口の先に、切断された手をあてがった。


 俺は『張りぼての物真似』を発動して、グラノーラの『癒やしの手』を模倣する。膨大な魔力が吸い取られて、俺は一瞬気を失いそうになる。


 そうだった。グラノーラの魔法は、伯爵領の領民たちと繋がっている。その魔法を、俺の魔力だけで発動すれば、空になるまで吸い取られてもおかしくない。


「繋がりました!」


 ココルの手首は、骨と肉の一部が接続していた。完全に繋ぐのは無理だったようで、肉の多くや皮膚は繋がっておらず、血はまだ流れている。


「ここを離れて、事務所に駆け込め! お嬢に、ちゃんとした『癒やしの手』をかけてもらえ!」


「でも」


「足手まといだ!」


 ココルは一瞬固まったあと、決意の表情を浮かべて駆け出した。このやり取りはニーナにも伝わっているはずだ。すぐに対処してくれるだろう。


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