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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第10章 赤い糸

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10.2 針と糸

 俺たちは、ラパンの手下の案内で、白面症にかかった女性の家に来ている。そこで、女性の身体から魔法の部品が発見された。


「魔力入力器は、魔法再現器を構成する部品の一つだ。

 魔法再現器は話したな。魔力を注ぎ込むことで、霊餅(れいへい)の生成や精霊語の会話などを自動化するものだ。魔力入力器は、そのための魔力を、各部品に送るためのものだ。

 この魔力入力器に似た部品を人体に埋め込んで、魔力を吸い出すようにしているみたいだな」


「吸い出してどうするんだ? どこかに送るのか?」


「たぶんな。彼女の魔力量を見てみろ。おそらく平常時よりだいぶ低下している。無気力なのは、そのせいだろう。常時吸い出されているから体調が悪化して顔色も悪くなっている」


「どうやって送っているんだ?」


「魔法は、使用者と霊体の架け橋が必要だというのは知っているな?」


「ああ。もしかして、何らかの架け橋があるのか。その架け橋をたどれば、犯人にたどり着くのか?」


 俺は息せき切って聞く。


「その話をする前に、目の前の女性を救った方がいい。部品を切り離して治療する。魔法の部品は事務所に持ち帰り、精査する」


「分かった」


 マルの言うとおりだ。目の前の女性を救う方が先だ。


「アステル、部品は見えるか?」


 マルが針が刺された場所を指差す。


「いや」


「仕方がない、切り離しは私がやろう。アステル、体を借りるぞ」


 俺は一瞬意識が飛ぶ。回復したときには全てが終わっていた。


「回収したのか?」


「ああ」


 マルは何かを持っているようだった。真っ白だった女性の顔に、少し血の気が戻ったように見えた。


「グラノーラ、傷の治療をしてやれ」


「分かりました」


 マルに言われて、グラノーラは『癒やしの手』の魔法を使う。

 女性の傷が消えた。禿げた皮膚が元に戻る。そして表情に生気がみなぎり、子供たちが喜びの声を上げた。


  ◆◆◆


 事務所に戻ってきて、ニーナがお茶を入れた。机を囲んで話し合いを始めた。


 マルが全員に姿を現して机の上に立つ。


「この機会だ。魔法について少し講義をしよう」


 俺たちは身構える。魔法についての新しい知識を授けてくれるのか


「まず、人工精霊や魔法再現器が見えない理由は分かっているか?」


「希薄なせいで、魔法と強い縁がある持ち主にしか認識できないからだろう」


 俺の回答に、マルは正解と言った。


「次に、人工精霊や魔法再現器は百年単位で形を保っている。しかし、今のアステルたちの霊撃は短時間で崩壊する。この違いについて分かるか?」


 これは俺も気になっている。しかし理由が分からない。俺は周囲を見渡した。他の仲間たちも答えにたどり着いていないようだった。


 俺は考える。マルが質問するときは、たいてい答えられない内容ではない。すでに知っていることを組み合わせたり、直前に話したことを参考にしたりして解ける問題だ。


 俺はすでに崩壊しない霊体を知っている。人間や動物などの霊魂や精霊だ。道具や家などにも、微かに霊体が宿っている。それらの霊体は、崩壊せずに形を保っている。


 形を保っている霊体は、量の違いはあれ、魔力を発している。生物の霊体の方が多いが、物の霊体もわずかに魔力がある。

 精霊はどうなのだろう。周囲のものから魔力を吸い上げているが、自身も魔力を持っているのだろうか。


 生物については、種族によっておおよその魔力量は決まっているようだ。しかし同じ種族でも、ある程度のバラツキはある。


 魔力はどこから来ているのか? 魔力はおそらく循環しているが、どのような経路で循環しているのか俺は知らない。

 霊体が魔力を取り込んでいるところを見たことはない。霊体や物体は基本的に魔力には変換できないとマルは言っていた。


「まいった、分からない。俺が気づいていない何かをマルは気づいている。だからこそ人工精霊や魔法再現器を開発することができた。

 それは魔力を発生する何かだと思う。いや、魔力を循環させる見えない経路と言った方がいいか。俺には認識できない魔力が消える経路と、魔力が湧き出る経路があるんだろう。

 そうでないと辻褄が合わない。魔力の総量は、おそらく世界で一定だ。証拠はないが、その可能性が高いと俺は感じている」


 マルの表情が輝いたように見えた。満面の笑みを浮かべている。


「どうやら、アステルは見込んだとおりの人材だ。大魔法使いにいたる才能を備えている。私も同じような思考にいたり、人工精霊の開発に着手した」


「それで種明かしは?」


「その前に、事件の調査をしよう。希薄で見ることが困難な霊体を見る訓練をするぞ」


 はぐらかされた。しかし、精霊などの姿を架け橋なしに見る方法も知りたかった。


「どうやって見るんだ? 森の精霊のときには、精霊と縁を持つ木に架け橋を作って見た。それ以外の方法があるのか?」


「架け橋を髪の毛のように細く無数に伸ばすんだ。うまく触れることができれば存在を探知できる。数多く触れれば形も認識できる。これを霊魂の目に対して、精霊探知と呼ぶ」


 俺は思い出す。自分の魔法が髪の毛のような糸を大量に持っていたことを。あれと同じようなものを、俺の霊魂から出すのか。

 目をつむり、意識を集中して、糸を伸ばすイメージを膨らませる。


「見えた!」


 立体パズルのピースのようなものを目撃できた。


「全然見えないわ」

「見えません、アステル様」

「私も無理みたいです」


 他の仲間たちにはまだ難しいようだ。


 俺は魔法の部品を精査して、何か手掛かりがないか探す。

 複雑な形状をしているようだが、それ以上は分からない。これ以上は今の俺には無理だろうと思い、マルに助けを求めた。


「アステルは見えたのだな?」


「ああ」


「それでは、もう少しヒントをくれてやろう。魔力は架け橋を経由して送ることができる。細く糸のようになっても同じことができる」


 マルが何を言おうとしているのか、俺は分かった。


「この部品に糸が付いていた場合、その糸を検知してたどれば犯人がいるということか?」


「そういうことだ」


 糸のように細いものを検知するのならば、さらに大量の霊体の糸が必要だろう。無数の綿毛をイメージする。そのイメージを骨格として、魔力で霊体を組み立てていく。


 微かに触れた。その場所に集中的に糸を伸ばす。認識できた。糸がある。この先に、今回の事件の犯人がいるはずだ。


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