10.1 白面症
日が暮れるまで、マルのために図書館で本のページをめくった。そのあと宿舎に戻って、グラノーラの部屋に顔を出した。
ささらの金髪に美しい青い目のグラノーラが、俺のことを迎えてくれる。メザリアに呼ばれて記念館に行ったことを、グラノーラに話した。反応は「ふーん」という感じだった。
◆◆◆
――十二月中旬。
数日が経った。
俺たち仲良し同盟は、小規模な集団だ。陰湿ないじめに遭いやすくはあるが、頂点のグラノーラがやられっぱなしを許す性格ではない。
目の前でやられれば反撃するし、裏でやられれば俺に調べさせて仕返しをする。嫌がらせをしてくる者も下っ端なので同情するが、数倍返しできちんとさせてもらう。
それだけではない。記念館の一件以来、俺に関わると魔法が使えなくなると噂されるようになった。
魔法学校で魔法が使えなくなると致命的だ。俺は、かつての自分を思い出して、ざまあみろと言いたい気分になる。
そうしたこともあり、嫌がらせは最盛期に比べてかなり減った。最近は、下っ端連中も、俺たちに手を出すことを嫌がっている。
「お嬢、今日は事務所に顔を出す」
「じゃあ、私も行くわ。ニーナも来る?」
「はい」
まあ、一緒に行動した方が安全だろう。俺たちは外出届を出して街に繰り出した。
ガゼー地区の貧民街に入り、事務所に行く。ココルが出迎えてくれて全員分の椅子を並べてくれた。
「ココル、俺が不在のあいだに何かあったか?」
決闘代行の仕事が何件か入っていた。その日に合わせて来るようにしよう。それ以外に変わったことはないかと尋ねる。ココルは、ラパンから回ってきたという話を伝えた。
「白面症?」
「はい。そういう病気というか症状の人が、ちらほらと出ているそうです」
「聞いたことのない病気だな。どういう症状なんだ?」
「無気力になり、顔色が悪くなり、血の気がなくなるそうです。だから白面症と言われているみたいです」
「栄養不足じゃないのか?」
「いえ、明確にきっかけがあるそうなんです。街を歩いていると針で刺されたと、みんな言っているそうなので」
俺は眉を寄せる。
「毒を注入されたか、病気をうつされたというわけか?」
「家族が医師のもとに連れていった人もいるそうですが、原因は分からなかったそうです。
被害者は老若男女問わないそうです。ラパンさんから、アステル様にも伝えて欲しいと言われました」
俺は無言で考える。ラパンが俺にわざわざ伝言を頼んだということは、以前の単眼鬼のように魔法がらみの案件を疑っているのだろう。
「マル、魔法方面から、何か思い当たることはないか?」
これは修行ではない。被害者がいるのならば早めに手を打つべきだ。マルが分かるのならば、その情報を元に素早く動きたかった。
「今の話だけでは何とも言えないな。被害者を見てみないと分からんよ」
「よし、今から行こう。グラノーラとニーナはここで待っていてくれ」
「私も行くよ! 待つの暇だもの」
「いや、大人しく待てよ」
「そんなこと言って、前回も蚊帳の外だったじゃない!」
グラノーラは、てこでも動かなさそうな態度を取る。
俺はニーナに視線を向ける。グラノーラが行くのなら自分も行くという顔をしていた。
このメンバーでぞろぞろと行くのか。あまり目立ちたくはないのだが。
「お嬢、待っていてくれ」
「嫌!」
何度か押し問答をしたあと、俺はしぶしぶ了承した。
◆◆◆
ボブの酒場に行き、取り次いでもらった。ラパンのアジトを訪問して挨拶をする。
ラパンに事件のことを聞いた。ここ一、二週間で王都の各所で起きているらしい。人の多い市場などで発生しているそうだ。
「ラパンさん、詳しい話を聞かせてください」
「アステル、おまえさんの知恵を借りたい」
俺はうなずき、先を促した。
被害者は針状の物で体に傷をつけられている。その後数時間で無気力になり、顔色が蒼白になるという。
「被害者に会うのは難しいですか?」
「この地区にも何人かいる」
俺は、その人のもとに案内してくれるようにラパンに頼んだ。
ラパンの手下に先導されて路地裏の長屋にやって来た。そのうちの一つの部屋に入り、布団で寝ている中年の女性に会った。
女性は寝ている。今は子供たちが世話をしているという。俺は彼女を観察する。言われたとおりに顔が蒼白だ。白面症という名のとおりの顔だった。
それだけではない。ココルやラパンが話していなかった症状も見てとれる。皮膚の各所が禿げて肉が露出している。肌が乾燥して裂けているのだ。
草花が枯れたときにカサカサになるように、皮膚が枯れてもろくなっている。早晩彼女は、枯れ果てて砕けてしまうだろうと思われた。
「当時の様子が知りたい。お母さんを起こしてもらっていいか?」
「はい」
子供たちは女性を揺すって目を覚まさせた。女性は、必死に痛みに耐えている様子だ。
「針で刺されたと聞きました。そのときのことを教えてください」
女性は、つっかえつっかえ声を出す。口の中も乾燥しているようだ。舌をうまく動かせず、喉も乾ききっているのだろう。
「チクッとして振り返ったのですが、原因は分かりませんでした。朝の市場で人がごった返していましたので。針で刺されたようでしたが、誰なのかは特定できませんでした」
新しい情報はほとんどない。
「刺されたところはどこですか?」
ゆっくりと腕まくりをして見せてくれる。前腕の半ばぐらいの場所だ。すれ違いざまに狙いやすい場所といえる。傷は赤い点が少し残っているだけだ。
見せてもらった傷口をじっと見る。俺には何も読み取れない。マルを促す。少し観察したあとマルは答えた。
「見たことのない魔法の部品があるな。魔力入力器の亜種のようだ」
「えっ?」
急に魔法の用語が出てきて俺は驚いた。俺はマルに説明を求めた。




