9.3 政略家
俺は記念館を出て、図書館へと歩きだす。追っ手が来ることを警戒しながら、なるべく急いで移動した。
マルが姿を現して語りかけてきた。
「無茶をする」
「仕方がないだろう。あの場に長くいるほど俺が不利になるんだから」
「今後どう言い訳をするつもりなんだ? あの二人を昏倒させて魔力を奪ったことを」
魔力を奪ったのは、やりすぎだったかもと反省する。
「くそっ、魔法の勉強をして、魔法使いとして国に認められたいだけなのに、何でこんな苦労を背負い込まないといけないんだ!」
腹が立ってきて俺は強い口調で言った。
「おまえもグラノーラも政治が好きな人間ではないからな。それよりも個人の能力や成長に興味がある。そうした意味では似た者同士だな」
マルがからかうように言う。
記念館からだいぶ離れた。もう急がなくてもいいだろう。俺は足を緩め、人目につかない場所を歩くことにする。
建物の外周を囲む回廊に入った。俺は不満の表情を浮かべながらマルとの会話を続ける。
「おまえさあ、俺のことをこてんぱんに言うけど、おまえが運営していたアカデミーはどうだったんだよ。
大魔法使いの塔とやらで、弟子をたくさん抱えていたんだろう。派閥争いも当然あったはずだ。なかったとは言わせないぞ」
俺から見れば、マルも俺やグラノーラの同類だ。政治が好きなタイプではない。魔法にしか興味がなく、ずっといじっていれば幸せなタイプだ。
「派閥はあったなあ。基本的には実力主義だったが、そうしたものとは別に、人を集めるのがうまいやつもいたなあ」
マルの話に興味を持つ。アカデミーは、魔法バカばかりが集まった場所だと思っていたが、そうではない者もいたのか。
「どんなやつだったんだ?」
「おまえも知っているよ」
「五百年前のことは文献に残っていないんだろう。いや……」
分かってしまった。マルが言っているのが誰のことなのかを。
「この国、魔法王国ザラエルの創始者か?」
「ああ、転生の魔法使いザラエルが、派閥を作るのがうまく、政治が好きな人間だよ」
俺は口を閉じ、マルの話を聞く。
「転生や不老不死は、誰もが目指す魔法の一つだな。やつはそれを、政治のために作り上げた。
ザラエルが巧妙なのは、魔法による貴族制度と、転生による権力維持を組み合わせたことだ。やつはその魔法を掲げて国を立ち上げた」
魔法バカの中に紛れ込んだ、魔法の才能を持った政治家。それがザラエルだったのだろう。
「実際に国を作っていく様子は初期の頃しか見ていないがな。王国の青写真は、相談されていたから知っている。転生神殿。それこそがザラエルの権力基盤だ。おまえも痛感しているだろう。転生に頼ろうとしたわけだから」
俺は口元を歪める。
「ザラエルは自身の信念のとおり動き、自らの王国を手に入れた。そして、ザラエルのもとで魔法の発展は止まってしまった。
新しい魔法を作る必要がなくなったからな。人は、易きに流れる。技術は失われるんだよ、政治的な理由で」
マルは悲しそうな顔をする。俺はマルに共感する。魔法王国ザラエルの貴族であるのに。
「魔法使いは他にもたくさんいたんだろう。そんな急激に失われたりしないだろう」
せめてもの抵抗のつもりで言った。何か言ってくれると思った。しかしマルは黙り込んだ。饒舌な彼女が珍しいと思った。
マルは苦い顔をして、図書館に早く行こうと主張した。




