9.2 派閥への勧誘
魔法学校の記念館に連れてこられた。俺は一つの部屋に案内される。
扉は重厚な木材でできている。華麗な彫刻が施されていて、ダンロス公爵家の紋章が刻まれている。
メザリアが使っている部屋だろう。二人の男のうちの筋肉の方、ムジカ・フロアが中に声をかける。
女性の声で、入るように返事があった。扉が開き、中の様子が見えた。
部屋の奥には広いガラス窓がある。あれだけの大きさのガラスはさぞ高価なことだろう。その窓の前に執務机があり、メザリア・ダンロスが椅子に座っている。銀色の長い髪に灰色の目の女性だ。
部屋の左右には複数の机があり、何人かが書類を整理している。集めた情報をいつでも使える状態にしているのだろう。多くの人間の急所や弱みもまとまっているはずだ。怖いなと思った。
部屋に入ったあと、俺を連れてきた二人は、他の作業を始めた。俺は一人残されてぽつんと立っている。おいおい、最後まで責任を持てよと思った。
「こちらに来なさい」
メザリアに呼ばれた。背後の大窓からの光で、白銀の髪が輝いている。どんな無理難題を吹っかけられるんだろうと思いながら、俺は執務机に近づいていった。
「単刀直入に言うわ。私の派閥に入りなさい」
「すみません、俺はお嬢以外の下にはつきません。お嬢が、メザリアさんの配下につくなら従いますが、そうでないなら受け入れることはできません」
俺は、メザリアの言葉に即答した。城壁を崩したあと城を落とそうという作戦だろう。さすがにその作戦に乗るわけにはいかない。
部屋の空気が緊張したものになる。そうなるよなあと思い警戒する。
「用件が以上なら失礼します」
俺は部屋から退出しようとする。扉に向かうと、俺を案内してくれた筋肉のムジカ・フロアと、贅肉のサンチェス・テレスが俺の行く手を遮った。
「メザリア様の話に正しく答えていないぞ」
「回答は『イエス』か『はい』のいずれかだ」
暴力沙汰を起こしてよいものか。今の俺ならある程度戦える。
しかし敵陣のど真ん中だ。どんなイレギュラーが起きるか分からない。最悪、退学の憂き目に遭う可能性もある。
俺は振り向いてメザリアに声をかける。
「この二人が俺を遮っているのは、メザリアさんの意思ですか?」
「いや、私は何も指示していない」
「では、彼らを排除しても、メザリアさんの意思に反していることにはなりませんね」
「そういうことになるな」
立場上はそう言うだろう。下々の者たちが勝手にやったこと。権力を持つ者は、こうした振る舞いが可能だ。
言質を取っても覆されることのある相手だが、何もないよりはましだ。
「あんたらは何年生だ?」
「おまえと同じ一年生だよ」
「じゃあ、あまり遠慮しなくていいよな」
俺は敵意の視線を二人に向ける。至近距離の霊撃を食らわせた。
ムジカ・フロアと、サンチェス・テレスの二人が、意識を失って倒れた。
部屋にいた生徒たちがざわめく。長居は無用だ。廊下に出るために扉に手をかけた。
「待ちなさい!」
メザリアの声だ。無視は得策ではないだろう。
「何ですか?」
「今、何をやったの?」
「何もしていませんよ。気分が悪かったんじゃないですか。勝手に倒れて道を空けてくれました」
もう一波乱あるかもしれない。昏倒した二人から魔力を奪う。彼らは回復するまで、しばらく魔法が使えなくなるだろう。
「あなたの魔法は『張りぼての物真似』よね?」
俺の魔法まで調べているのか。メザリアは、情報が間違っていたのかもしれないと思っているのだろう。
「さあ、どうでしょう。当家は新興ですので、魔法については難しすぎてよく分かりません」
俺は部屋を出て、扉をそっと閉じる。そして廊下を走って記念館から外に出た。
「ふうっ」
息をはいて額の汗をぬぐった。心臓がまだ大きく鳴っていた。




