8.7 魔獣狩り
森での魔法修行も二日目になった。今日は魔獣狩りをする予定だ。
クマの魔獣の場所を把握するのは簡単だった。俺が精霊魔法を使い、森の精霊に場所を尋ねたらすぐに分かった。
古代の人間にとって、精霊魔法が画期的な発明だったのが理解できた。そして、その後長い時間、次の発展がなかったのもうなずけた。
「場所は把握できた。どうやって倒すかを考えよう」
俺たちは馬車の前で、頭を寄せ合って考える。剣で戦うのは論外だ。弓矢は用意していないし、矢だけでクマを殺すのは難しいだろう。
落とし穴も考えたが、穴を掘る道具を持ってきていない。縄を使った罠だとクマに引きちぎられるのがオチだ。
「まいったな。この人数で倒す有効な方法を思いつかない」
「穴にこもっているならクマ槍で、そうでないなら毒矢が有効よね」
グラノーラは、領地でクマが出たときのことを話す。
「穴からは出ている。即席の弓矢でクマに立ち向かうのは避けたい」
そもそもクマにグラノーラを近づけたくない。攻撃力のある魔法で、ズバンと倒して終わりだと楽なのだが、あいにくそういったものはない。
俺は使える手札を組み合わせて考える。マルに指摘された俺の悪癖だが、そこからよい作戦を思いつく可能性だってあるだろう。
「そうだ。弓矢を作って毒矢を放とう」
「毒矢は私が言った方法じゃない」
グラノーラが頬を膨らます。
「ああ、そこに精霊魔法と純粋魔法を組み合わせる。
射線の枝葉や草に避けてもらい、矢の障害物を取り除く。物体化で矢をまっすぐに飛ばして、勢いも増す。必ず当たる毒矢を作る」
「それなら、投げ槍の方がいいんじゃない。自力で飛ばすのなら弓は必要ないんだから」
グラノーラは、作る手間とあつかいの容易さから、短槍を作ることを提案した。
「そうだな。お嬢、それでいこう。トリカブトは探せるか?」
「任せて。根を取ってくるわ」
護衛にココルをついて行かせる。俺はニーナに縄やナイフを出してもらい、投擲用の槍をいくつか作成した。
◆◆◆
マルに翻訳してもらいながら、森の精霊に魔獣退治のことを伝えた。霊餅を用いるまでもなく協力してくれるという。
森の精霊は、枝葉を動かして水場の近くで足止めしてくれると話した。また、槍を投げるのにちょうどよい場所まで教えてくれた。
森の精霊も、魔獣に困っていたようだ。
「順調すぎて不安だな」
「足をすくわれないようにしろよ」
マルは俺の横でちょこちょこと歩いている。
「アステル! トリカブト取ってきた!」
本当に伯爵令嬢なのかよと言いたくなる速度で、グラノーラはトリカブトの根を採取してきた。
本来なら乾燥させて粉末状にして練るが、その工程は短縮することにした。砕いて練って槍の穂先に付けた。
小鳥を捕まえて傷をつけてみる。毒として効果があるか確かめる。すぐに死んだ。大丈夫だ。毒槍として使える。これでクマと戦えるだろう。
他の三人には下がるように伝えて、森の精霊に聞いた場所に立つ。
霊魂の目で見ると、遠方にクマの姿が見える。こちらには気づいていない。卑怯な気もするが、狩りというのはそういうものだ。
槍は三本用意した。一本を構えると、前方の枝葉や草が一斉に退いた。森の中に横穴が生じる。その穴目がけて、思いっきり槍を投げた。手を離す瞬間に、物体化で槍を覆い、一直線に敵に向かうようにコントロールした。
クマがこちらの気配に気づいた。それだけでなく霊撃を飛ばしてきた。魔獣といわれるゆえんか。避けてもよいが、槍を支えている物体化が解けるかもしれない。食らうことを覚悟して、そのまま槍を飛ばし続ける。
背後から霊撃が飛んできた。ココルだ。クマの放った霊撃を打ち落とした。
クマの体に槍が到達する。物体化で俺の魔力は大きく減り、めまいがする。三本用意したが一本が限界か。クマの様子を窺う。こちらに向けて駆け始めた。
毒の効きが遅いのか。二本目の槍を構える。力が入らない。俺は膝を突いた。
ココルが飛び出してきた。三本目の槍を手にしてクマへと駆け出した。
「危険だ!」
俺は叫ぶ。ココルはステップを踏んで毒槍を投げた。槍は一直線にクマへと飛ぶ。物体化による軌道の補助。俺の手本を見て真似したのだ。槍がクマに突き刺さる。
クマの歩みが遅くなる。そして完全に停止して、その場に倒れた。
「死んだな」
出てきたマルが、クマを観察しながら言う。
「本当に死んだのか?」
「魔力が吸える状態になっている。アステルが奪え。人間相手よりもたっぷりと吸えるぞ」
魔力量は多いほどいい。俺はクマに近づき手をかざす。自身の器以上に魔力を吸収した。全身に生気があふれている。野獣のような強さが渦巻いている。
「アステル、なんかワイルドになったみたい」
グラノーラが、しげしげとながめながら言う。
「男らしい雰囲気になったみたいです」
ニーナが俺を見つめる。ココルも、うんうんとうなずいた。
「この魔獣の死体、どうしますか? 街に持って帰ることができれば、高く売れると思いますが」
ニーナが俺に尋ねてきた。
クマの皮や胆が高額で売れるのは知っている。一番いいのは、解体して素材だけを持って帰ることだ。しかし、そんな技術も知識もない。運ぶにはさすがに重量がありすぎる。
「諦めるしかないだろう。死体は森に返そう」
森が喜んだような気がした。多くの生物たちの養分になるだろう。
「さあ、帰ろうぜ」
馬車に戻った俺たちは、テントを畳み、荷物を回収して王都へと引き返した。




