8.6 森と魔獣
馬車とテントのある場所に、俺とココルは向かった。まだだいぶ離れたところでグラノーラの声が聞こえてきた。
「アステル、見っけ!」
俺はマルに顔を向ける。姿はまだ見えてないはずだ。森の木々を無視して、俺たちを見つけたということか。
「グラノーラは、霊魂の目を身に付けたようだな」
これは、すぐに追い越されそうだなと思った。
馬車を停めている場所に着くと、ニーナが集中して霊体を作っていた。こちらも修行が進んだようだ。
「よし、今日の修行はお終いにして、食事の準備をしよう。俺がスープを作るから、みんなは皿を用意してくれ」
「手伝わなくていいんですか?」
おずおずとニーナが言う。
俺は女性陣を見渡す。グラノーラは食べるのが専門だ。ニーナは料理自体は習っているだろうが、ふだんは料理などしない。
ココルは論外だ。基本的に手に入れた食材をそのまま食べる。最近は、パンばかりを食っているから、肉や野菜を食わせるのに苦労している。
「たぶん、俺が一番料理が得意だ」
俺は鍋に水を入れて火にかけ、馬車の荷台から食材を下ろす。そして、ナイフで野菜の皮を剥いて投入していき、干し肉の欠片を入れて煮込み始めた。
途中で塩と香草で味を調える。パンはたくさんあるから主食には困らない。
お茶も淹れた。ニーナが持ってきた高級な茶葉だ。
料理は好評だった。食事をとって、お茶を飲んでくつろいでいると、森は闇に包まれていった。
焚き火の火を囲んで、四人で時間を過ごす。生まれも身分も違うが、そのことは気にならなかった。
「マル、明日の予定はどうなんだ?」
俺は微かに姿を現しているマルに尋ねる。
「魔獣狩りをする」
全員がマルに視線を注いだ。
「魔獣って、この森にいるのか?」
「ああ、いる。何だ、感じていないのか?」
マルはにやにやしている。こちらの能力が低いのをからかっているのだ。
「グラノーラ、感じているか?」
「ううん、分からない」
「ココルとニーナは?」
二人も気づいていないようだ。
「マル、具体的には、どういう魔獣なんだ」
本当に魔獣がいるのなら、のんびりとキャンプしているのはまずいのではないか。
「年老いたクマだな。化け物になり百年ぐらいは経っているはずだ。森にとっても害獣として認識されている」
「クマはそんなに長生きできるのか?」
「私は二百年ぐらいは生きたぞ。魔法の力で、老いを止めたり若返ったりすることはできる」
「精霊の影響が強く出た個体というわけか?」
マルはうなずいた。
「精霊魔法の使い手が一人。純粋魔法の使い手が三人。傷の回復が使える全自動魔法の使い手もいるわけだ。不可能な相手ではないだろう」
「いや、危険だ。グラノーラを危険にはさらせない」
「大丈夫よ、私もやりたい! 面白そうだから」
「だから、やらせたくないんだよ」
グラノーラはおてんばなところがある。見た目は完璧な貴族のご令嬢だが、地元では山猿みたいに野山を駆け回っていた。好きに振る舞わせたら、魔獣に格闘戦を挑みかねない。
「別に正面切って戦えと言っているわけではない。狩りをしろと言っているんだ。狩りにはいろいろとあるだろう」
俺はため息をつく。
「罠を張っても狩りということか?」
「やり方は問わない。見事魔獣を仕留めてみせよ」
マルは腕を組んで意地悪な顔をした。




