8.4 精霊魔法
俺たちは、王都近くの森に一泊二日の修行に来ている。ココルと森に入った俺は、精霊の姿を認識することができた。
「次は精霊に話しかける修行だな。精霊語は教えてくれるのか? それとも自分で解析するのか?」
俺はマルに尋ねる。
「まず、精霊の声を出せないといけないな」
「人間の声とは違うのか?」
「人間や獣や鳥の声は、物体を振動させて発生させる。精霊には霊体を振動させた声が必要だ。これには二つの方法がある。
一つ目の方法は自分の霊魂を振動させる。二つ目の方法は、霊体化で振動子を作って精霊の声を作る。
一つ目の方法は原始的な方法だ。古い精霊魔法使いはこの方法を用いた。
二つ目の方法は、新しい方法だ。振動子と振動の記録を組み合わせることで、精霊語の自動化を実現できる。オルゴールと仕組みは同じだな。
大魔法使いを目指すアステルは二つ目の方法を習得する必要がある。しかしまずは一つ目の方法からだ。こちらの方が簡単だし基礎だからな。順に学んでいくことにしよう」
「仕組みは分かった。何とかなりそうだ。それで言葉だ。人間の言葉と同じでよいのか?」
「本来は、精霊との観察や対話で言葉を学ぶ必要がある。
だいたいの精霊は、今置かれた状況を、そのまま言葉にして発している。火の精霊が燃えているなら、燃えている、燃えている、と言っている。物を燃やしたいときは、その言葉を覚えて伝えればいいわけだ。
今回は時間がないから、少しずるをしよう。森の精霊に語りかける言葉を教える。意味は、日光を、だ」
木々のざわめきのような霊体の音をマルは発する。俺は自身の霊魂を震わせて、その言葉を真似する。
森の精霊がわずかに反応している。しかし、言うことを聞いてはくれなかった。
「霊餅がいるっぽいな。これはどうすればいいんだ?」
「霊撃は刃をイメージさせた。霊餅は食べ物をイメージすればいい」
俺はパンをイメージする。タラバルが毎日差し入れしてくれる美味しいパンだ。霊体で作ったパンを、「日光を」という森の精霊語とともに差し出した。
頭上の枝葉が退いた。見えざる手が動かしたのだ。多くの木からわずかずつの魔力が消費されていた。奇跡のように自分の姿が陽の光に包まれる。
ココルが、神聖な者を見るような目で俺を見ている。古代の人々が精霊魔法を使う者を、どのような心でながめていたのかを垣間見るようだった。
「これが精霊魔法なんだな」
「そうだ」
「これから先、いろいろな精霊の言葉を覚えていく必要があるわけか」
「記憶力はいいだろう。そこはおまえには簡単だ」
「ああ」
世界の歯車が噛み合った気がした。魔法の世界に深く踏み入った気持ちになった。
「同じことを、霊体の振動子を作ってやってみろ」
「やってみる」
俺は精神を集中して、太鼓をイメージした霊体の膜を作り出す。その膜を震わせて、自らの霊魂から出したのと同じ霊体の音を発生させる。
霊餅を差し出して、先ほどの木々のざわめきを再現する。今度は、木々が枝葉を鳴らし始めた。精霊語を学び、事象を再現することに成功した。
「二つ目もできたぞ」
「よい弟子だ」
マルが満足そうに言う。俺はマルに顔を向けて質問する。
「精霊魔法が純粋魔法よりも強いのは、精霊が人間よりもはるかに大きく、多数の霊魂と繋がり、魔力を持っているからなのか?」
「そうだ」
「それなら、全自動魔法は、どこから力を得ているんだ?」
人間の魔力だけで動かすのには限度がある。新しい学びは新しい疑問を生む。学べば学ぶほど、次の世界が広がっていく。
「現代の魔法使いが全自動魔法をどのように使っているのかを話そう。魔法使いは自身の魔力を、魔法の高速起動に用いる。人工精霊を動かすのには、ほとんど用いない。まあ、自分の魔力で全てをまかなう者もいるがな。それは少数派だ」
俺は、自分自身の魔法『張りぼての物真似』の姿を見る。魔法の人工精霊からは、髪の毛のような無数の糸が伸びている。この無数の糸は、森の木とのあいだに作った架け橋によく似ていた。
「あっ」
答えが分かった。
「どうした、何かにたどり着いたのか?」
「領民だ。貴族が使う人工精霊は、その貴族の土地に住む領民に接続されている」
「そうだ。そうしたことをしていなければ、自身の魔力だけで人工精霊を働かせないといけないから威力は弱くなる。
あるいは、他人から奪って魔力を溜めておくかだな。素早く使うことは諦めないといけないが、この方法でも大きな魔法は使える」
新しい事実を知るたびに、次の疑問が湧いてくる。
「魔力は肉体の器を超えて集められるのか? 俺は器より少し多い量しか溜められなかったぞ」
「人間が魔力を蓄えられるように、精霊も魔力を蓄えられる。人工精霊もな。特に容量の大きな人工精霊を作ることもできる」
俺は魔力を集めていた殺人鬼の存在を知っている。
「単眼鬼が、それをやっていた?」
「やつが何を狙っていたかは分からんがな」
マルは苦々しそうに言った。




