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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第8章 魔獣狩り

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8.2 合宿開始

 ――十一月下旬。


 合宿をおこなう土曜日の早朝になった。俺たち魔法学校の仲良し同盟は、グラノーラの部屋に集まった。


「まずは、ニーナのシャントン家の商館に行くのよね」


 グラノーラは、ピクニックにでも行くように楽しげだ。


「はい、そこで馬車に乗り込んで、ココルさんのいる事務所に向かいます」


 俺たちは魔法学校を出て、早朝の街を歩いて王都の北に向かう。

 商館街に着いた。周囲は朝の市で賑わっている。俺たちは人のあいだを抜けて、シャントン家の商館に行った。ニーナの家の商館は、商館街の中でもかなり大きかった。


「お嬢様、馬と馬車を用意しています」


 商館員が出てきて挨拶をした。


「ありがとうございます。返却は明日の夜ぐらいの予定です」


「分かりました、お嬢様。よい、旅を」


 商館員に送り出されて出発する。


 事務所に着いた。ココルが建物の入り口で待っていた。

 四人で手分けをして荷物を馬車に運ぶ。こういうとき、グラノーラは伯爵令嬢だが積極的に体を動かして手伝ってくれる。都会の貴族では、こういうのはあまりないだろう。


「荷物の運び込み終わり!」


 グラノーラは笑顔で両手を上げる。俺とグラノーラとココルは荷台に乗り込んだ。

 ニーナが、にこにこしながら御者席に座り、馬を歩かせ始める。小気味よい蹄鉄の音を聞きながら早朝の街を進む。


 門を抜けた。街道を進む。久しぶりに王都の外に出た。魔法学校に入学して以来、王都の城壁の中でしか暮らしていなかった。

 街道をしばらく進んだあと支道に入る。王都に食料を供給する農村へと続く細い道だ。


 左手に森が見えてきた。道は、この森を迂回するように続いている。

 森は鬱蒼としているが、馬車を入れられないほどではない。奥まで行くのは困難だが、少し入ったところまでなら、馬車のまま進入できそうだった。


「この辺で森の中に入り、適当な場所で拠点を作ろう」


 俺は荷台から御者席のニーナに声をかける。ニーナは手綱を操り、馬を森に向かわせた。


 森の外縁は馬車でも入れる状態だったが、すぐに車輪で進むのが難しくなった。

 森は外から内に向けて草木の種類が異なる。草、低木、高木と移っていく。それにつれて足元の地面も太い根で隆起して、車輪での走行が困難になっていく。


 馬車を停め、木製の車止めで車輪を固定する。馬は馬車から解放して、近くの木に手綱を結んだ。俺は自分が泊まる予定のテントを手早く立てた。


 グラノーラとニーナは、焚き火をおこなえるように下草を刈る。田舎出身で山によく入っていたグラノーラと、旅の経験があるニーナは、野宿の経験が豊富だった。


 ココルは、何をしてよいのか分からずおろおろしていた。生まれてから一度も王都を出たことがないらしい。街道を見たのも森を見たのも初めてだという。

 それなら仕方がないなと思い、いろいろと教えてやった。


 岩の上にマルが姿を現した。俺以外にも見える姿だ。


「宿泊できる状態になったようだな。それでは修行をおこなう。いつもより周囲に魔力が豊富なのが分かるか?」


 マルに言われて俺は周りを見渡す。生きた動植物で満ちている。この生気は魔力でもあるというわけか。故郷の野山では気にしていなかったが、マルに魔法を学んだおかげで分かるようになった。


「それでどういった修行をするんだ?」


「まずは二組に分かれる。アステルとココルは一班、グラノーラとニーナは二班だ」


 俺たちはそれぞれの組になる。俺は一班の班長、グラノーラは二班の班長ということになった。


「一班は、アステルの精霊魔法の練習を中心におこなう。第一段階は精霊を見つけること。第二段階は精霊語で話しかけること。第三段階は霊餅(れいへい)を作って交渉すること。ここまでできれば、精霊魔法を使えたと言える」


「精霊は、どんな姿をしているんだ? あと、精霊語も知らないし、霊餅も作ったことがないぞ」


「それぞれの段階に進んだところで指示を出す。第一段階の精霊探しは、精霊とは何かを探るところから修行が始まっている」


 なるほど。自分で考えて答えを出せというタイプの修行か。


「二班は、純粋魔法の修行だな。第一段階は魔力の霊体化、第二段階は霊体の形状変化による刃の創出と発射、第三段階は放出霊体の集中による遠距離の索敵、第四段階は魔力の物体化だ。

 ここまでできれば、アステルに追い付くことになる」


「あの、大師匠。私は物体化がまだできていないのですが、一班でよいのですか?」


 ココルがおずおずと尋ねる。


「おまえは、私の目の届くところに置く。そして、手を使わずに過ごしてもらう」


「えっ?」


「物体化ができるまで、手を縛って生活しろ」


 ココルは困惑した顔をする。生まれて初めて街の外に出て森を見た。不慣れな場所だ。その上さらに両手を縛って過ごすのか。


「ちょっと過酷すぎないか?」


「おまえが、グラノーラを助けようとしたときの方が、難易度は上だろう」


「いや、まあ、そうだが」


 俺は何も言い返せなかった。


「マル先生!」


 グラノーラが手を挙げる。


「何だ?」


「霊体化って、こんな感じですか?」


 グラノーラは手をかざして中空に霊体の塊を作る。


「できているな」


「それで、アステルがやっている霊撃って、こんな感じですか?」


 霊体の塊が矢尻のような形状になる。グラノーラは、その塊を近くの木に向けて放った。


「できているな」


「索敵は、まだよく分からないですね。そこから進めてみます」


「それでいい」


 天才かよ!

 俺は、グラノーラの魔法技術にびびる。


 いや、よくよく考えてみると当然だ。俺とグラノーラでは、貴族としての蓄積が違う。フルール家は何世代にもわたって、魔力量が多い人間を血統に取り込んできた。個人の基本魔力量がまったく違う。

 俺がコップなら、グラノーラは樽だ。魔力を凝集させて霊体を作るのも、俺よりも何倍も簡単だろう。


「なあ、マル」


「何だ?」


「実はこの中で、最も魔法修行に向いているのは、グラノーラじゃねえのか? 俺よりもグラノーラの方が、本物の魔法使いに近いんじゃねえのか?」


 俺は愚痴っぽい口調で聞く。


「魔力量は多いに越したことはないが、絶対的な要因ではないぞ」


「そうなのか?」


「私が生きていた時代、今のような魔法の継承による貴族制度はなかった。血統を重ねて魔力量を増やすようなことはおこなわれていなかった。それでも魔法開発の黄金期だった」


 確かにそうだ。


「必要なのは量よりも精度だ。

 今の魔法使いは、昔に作られた全自動魔法に、瞬間的に大量の魔力を注ぎ込むことに特化している。だから魔力の器の大きさが必要だ。

 私がおまえに目指すように言っているのは、魔法を作る方だ。魔法の開発は短時間でおこなうものではない。器が小さくても、長い時間をかければいいだけだ。

 納得できたか?」


 今の貴族のやり方に付き合う必要はないということか。

 それでも周囲に認められないといけないから、自分が継承した魔法を使いこなせる程度には、魔力量を上げておきたかった。


「私は一班について動く。二班は、グラノーラがニーナを指導する形で進めてくれ。他人に指導することで気づきを得られる。それは、次の段階に進むための道標になる」


「分かりました!」


 グラノーラが元気に返事をする。


「アステルは、まずココルの両手首を縛れ。その上で私と一緒に森の奥に入っていくぞ」


「了解」


「分かりました!」


 俺はココルの両手を縄で縛り、マルの先導で森の奥へと入っていった。


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