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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第7章 暗躍の魔法使い

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7.1 子供殺し

 俺とグラノーラとニーナとココルの四人は、王都西側にあるガゼー地区の貧民街の事務所にいる。俺たちは、ラパンから届けられた料理を食べている。


「そういえば、ココル。何か変わったことはあったか? ラパンのじいさんが、少し裏社会が騒がしいみたいなことを言っていたが」


 俺は、この事務所を任せている赤髪の少女ココルに尋ねる。


「はい、アステル様。王都の各所の貧民街で、子供がちょくちょく殺される事件が発生しています。

 殺し方は毎回同じで、人目につかない場所で絞殺されています。


 それぞれの地区の裏組織に直接のダメージはないですが、自分の縄張りで頻繁に起きれば面子は潰れます。

 他の地区の仕業だと決めつけて、報復という名目で、勢力拡大を始める組織が出てきています」


 ココルの話を聞いて俺は考える。王都は、物騒な事件が起きるのだなと思う。


「なあ、ココル。いったい、何のために子供を殺すんだ?」


「すみません、アステル様。それは私も知りません」


 俺はマルをちらりと見る。緑髪に緑目の幼女の姿をしている転生者だ。

 俺は先ほどの感想戦でマルに言われたことを思い出す。相手の目的を考えろだったな。その教えを適用するなら、犯人が子供をさらう目的を考えないといけない。


「死体はきれいなのか?」


「性行為のあとなどはないそうです。首の紐の跡以外に傷はありません」


「場所は王都中に散らばっているんだよな?」


「はい。貧民街の中でも人目につかない場所ばかりで事件は起きているようです」


「うーん」


 俺は頭を抱える。犯人の目的が分からない。子供が殺されるのは目的ではなく結果だろう。


「この地区で被害者は?」


「今のところ三人ほどいます」


 俺自身の目的とはまるで関係がない。無視してもよい事件だが気になった。


「私たちで助けられないかしら」


 さらさらの金髪に美しい青い目のグラノーラが、手を挙げて提案した。マルがグラノーラに顔を向ける。


「やめておけ。裏社会の人間たちが大量に動いて糸口をつかめておらんのだぞ」


 マルにいさめられたグラノーラは反論する。そのやり取りを聞きながら考える。なぜ、俺はこの件が気になっているのだろうか。


「なあ、マル。子供って、大人よりも魔力が多いのか?」


 修行を始めて、他人の魔力をよく観察するようになり、気づいたことがある。

 魔法の修行をしている貴族は別として、ふつうの人は大人よりも子供の方が魔力が多い。大人になるにつれて魔力は低下するのではないか。


「生物によるが、人間はその傾向があるな。逆に樹木などは長く生きた方が魔力が増える。どうした?」


「いや、他人を殺害したり昏倒させたりして魔力を奪う修行は、子供相手の方が効率がよさそうだなと思ったことがあるんだ」


 俺が考えを口にした瞬間、グラノーラと、青髪眼鏡のニーナと、ココルが、ドン引きした顔をした。

 くそっ、失言だったかと後悔する。一人、マルだけが感心した様子を見せた。


「ふむ。死体を調べれば分かるぞ。ふつうの死体は魔力が残っている。もし、枯渇していれば人為的に魔力が奪われたことが分かる」


 金銭が目的ではない、子供にいたずらをするのが目的でもない、殺人自体が目的でもない、死体の流用が目的でもない。

 それならば、犯人は何のためにその行為をやるのか。犯人は何を得ているのか。


 俺は立ち上がり、扉に向かう。


「ちょっと、ラパンに聞いてくる。発見された死体を見ることはできるかと」


 ココルが立ち上がり付いてくる。グラノーラとニーナも同行しようとしたが、いったん学校に帰ってもらうことにした。裏社会の奥に潜り込むことになるからだ。


 マルが姿を消して、俺だけに見える状態に戻る。グラノーラとニーナを表通りまで送ったあと、俺はココルとともに歩きだした。


  ◆◆◆


 俺はココルを連れて、ボブの酒場に向かう。マルが、俺だけに見える状態で姿を現して横に並んだ。


「死体を調査するとして、もし魔力が空だったらどうする気だ?」


 マルは、この件に関わるのかと聞いている。


「そのときに考えるよ。知りたいという欲求に、計画性なんかない。やりたいからやるんだ」


 俺が断固とした口調で言うと、マルは肩をすくめたあと、悪くはないといった顔をした。


 ボブの酒場に着き、ラパンへの取り次ぎを頼んだ。今日の件があったから会うという返事がすぐに来た。

 貧民街の奥のごちゃごちゃした場所を抜けていく、屋内の暗い通路を通ってラパンの部屋に来た。


「アステルよ、何用だ?」


「ココルから、子供の誘拐殺人事件が起きているという話を聞きました。この地区で発見された死体を確認したいです。気になることがあります」


「いったい何を調べたいのだ?」


「魔法に関わることです。この地区の人間よりは、少し詳しいですので」


 俺が貴族であることも、魔法学校の生徒であることもバレている。それならば、魔法とだけ言えば伝わるだろうと思った。


「何か分かりそうなのか?」


「分かれば絞り込めます。分からなくても、そうではないと可能性を捨てられます」


「ふるいをかけるということか」


「はい」


 ラパンもこの件については頭を痛めているのだろう。ラパンは立ち上がり「付いてこい」と言った。顔役自ら案内してくれるようだ。

 屋外に出ると、すでに空は紫色になっていた。夕暮れの赤色が、空の端にわずかに見えた。


 細道を抜けて、屋根がぼろぼろの家の前に着いた。

 入り口に黒い布がかけられていた。この家族の出身地域の風習だろう。ラパンは挨拶をして入り口を抜ける。手で示されてあとに続いた。


 低い天井、狭い部屋。死臭と嘆きの声が満ちている。両親であろう男女と、まだ幼い三人の子供たち。部屋の奥の粗末な木箱に、子供の死体が収められていた。

 ラパンが来たことに両親たちが恐縮した。ラパンは死者に対して深々と頭を下げる。俺とココルも従った。

 最大限の敬意を持って死者に接するために、ラパンは自ら来たことが分かった。俺がこれからおこなう無礼な振る舞いに、先にお詫びをするためだ。


 ラパンが俺を手招きした。死者に対して深く頭を垂れたあと棺に近づく。十歳ぐらいだろうか。貧民街の子供は栄養状態が悪い。だから本当の年齢は分からない。


 首に跡が残っていた。絞殺という話だった。俺は死体をじっと見る。魔力は感じられなかった。

 他の子供たちに視線を移す。兄弟姉妹たちの魔力は、ふつうの子供たちよりも多い。殺された理由は、直感どおりのようだった。


 ラパンは家族に銀貨を渡した。俺も同じように死者と家族のために金を渡す。家から出たときには、空に星が輝いていた。


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