6.6 挿話:王都の衛兵
王都の衛兵の仕事は地味なものだ。街で何かが起きれば駆け付けて、法律を犯していそうなら逮捕する。
その過程で暴れる者も多い。衛兵側に多くの怪我人が出ることもある。寿命をまっとうできる者は何割だろうか。
それでも国家の体制側に所属して、その権力を行使できるということは魅力的だ。そのため、社会的な地位を上げたいと願う貧困者は、衛兵に応募してその狭き門をくぐろうとする。
十代のときに衛兵になり、三十年勤め上げた俺はベテランといって差し支えない。
ここ十年は後進を育成している。若いやつらが育つのは見ていて嬉しい。
しかし、賄賂や不正で沈んでいく者もいる。嘆かわしいが仕方のないところもある。給料が低い。人数が少ない。各地区の裏社会の人間たちと繋がらないと、衛兵だけでは対処できないことが多い。
衛兵のほとんどは、国だけでなく裏社会の顔役たちから金をもらったり、便宜を図られたりしている。
俺の担当はガゼー地区だ。商店街と貧民街が接している場所だが、比較的治安がよい。この地区の顔役のラパンが、温厚で抜け目がないからだ。
地区によっては、若い顔役が勢力拡大を図って争乱を引き起こす。ガゼー地区には、そうした軽率さはない。しっかりと地域を振興して、発展させようとしている。
今日俺は、流行りの喫茶店に強盗が入ったという報せを聞いて飛び出した。部下の若手を四人連れて現場に向かった。
最近、いろいろな地区で争いが起きている。死傷者が出なければよいのだがと警戒した。しかし俺たちが駆け付けたときには、怪我人もおらず全てが解決していた。
たまたま現場に居合わせた貴族が強盗を撃退したらしい。アステル・ランドールという男爵家の跡取りと、その仲間たちだ。
現場には、フルール伯爵家の令嬢と、富商シャントン家の令嬢もいたそうだ。
アステル・ランドールとその部下のココルという少女が、獅子奮迅の活躍で強盗を倒したと、店にいた人々は口々に言った。
若い部下たちは、へー、そうなのか、という反応だったが俺は違った。王都で長く暮らしている四十代以上の人間には、ランドールという名前は特別な響きがある。
その日の夜、俺はラパンのもとに訪れた。そして、今日の事件について詳しい説明を求めた。
「あの、剣士ランドールの孫だよ」
ラパンの答えに俺は興奮した。そうか、南方戦役の英雄の孫なのか。それならば強盗を撃退したのも納得がいく。
ラパンはテーブルに酒を置いて笑みを浮かべた。ふだんなら、裏社会の人間との馴れ合いを好まないが、酒杯を取った。
一介の兵士が貴族へと成り上がる。そんな夢物語を体現した者がかつていた。
その孫が王都に帰ってきたことに、俺も酔わずにはいられなかった。




