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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第6章 お買い物

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6.5 感想戦

 俺と仲間たちは、ガゼー地区の事務所に集まっている。その場所でマルは、感想戦をして俺の悪いところを説明すると言った。


「悪いところ?」


 俺は目を細めてマルをにらむ。


「ああ、悪いところだ。まず、初手だ。最初に霊撃で狙った相手は、どういう理由で選んだ?」


 マルは、俺ににらまれていることなどお構いなしに言う。


「いや、お嬢が狙われていたから倒す必要があった。だから攻撃した」


「あれは悪手だ。最初に狙うべきだったのは、強盗たちの中で、お金の袋を持っていたやつだ」


「どうしてだ?」


 俺は納得がいかなかった。


「アステルは、自分の行動を絵札遊戯のように考える。持っている手札で何ができるかを検討する。そこで思考が止まっている」


「いったい、何が言いたいんだ?」


「絵札遊戯ではなく、盤上遊戯として考えるとどうなる? コマを動かして、相手の王を取るゲームだ。そうしたら目的が明確になる。


 ゲームの目的は、相手の王を取ることだ。手札をうまく使うことではない。

 おまえの王はグラノーラだ。だから守ろうとした。それも分かる。

 対して、敵の王はお金だ。そのことを考えたか?」


 俺は無言でマルの話を聞く。


「いいか、アステル。お金の袋を持った相手を昏倒させれば、敵の視線は全てそこに集中する。次の一手を打ちやすくなり、グラノーラへの注意もそれた。

 自分の王を守りつつ、敵の王を攻撃できた。盤上遊戯なら、二手分の働きができたわけだ。

 おまえは、そうした思考をしたか?」


 言い返そうとして口をつぐむ。確かに言うとおりかもしれないと思った。


「いいか、アステル。これはおまえの思考の悪癖だ。できることを基準に物事を考える。それは、敵の目的を見誤るだけでなく、自らの行動を制限することにも繋がっている。


 転生神殿で、私を転生させたのだってそうだ。

 おまえの本当の目的は、魔法使いになることではない。貴族としての地位を保ち、家族を守ることだ。

 それならば婚姻だっていい。養子を取るのだっていい。おまえ自身が努力をする必要はない」


 額から汗がにじみ出る。自分がやって来たことを根底から否定された。反論しようとするができない。マルの言うとおりだった。


 婚姻や養子については、意図的に選択肢から除外していた。他人の力を借りるのではなく、自分の力でどうにかしたかった。俺が家族に貢献できることを証明したかった。


「感想戦二つ目だ。おまえはグラノーラに矢を放たれたときに一か八かの賭けに出た。なぜ物体化に全てを託したのだ? その後、魔力がほぼ空になったよな。それで戦い続けられると思ったのか?」


「あの状況では、それしか選択肢がなかったからだよ」


「そうか、そう考えたか。それも、おまえの悪癖だ。

 先ほどと同じだ。おまえは自分の手札で何かをしようとする。だから周りを正しく見ていない。あのときの正解は、矢を無視して敵を制圧することだった」


「しかし、それでは、お嬢が死んでいたかもしれない。俺はお嬢を守らないといけない」


 マルはため息をついた。そして、やれやれといった表情をした。


「あのな、アステル。グラノーラは死なないよ。矢を放たれる前に、すでに自分に『癒やしの手』の魔法をかけていたからな。矢が当たっていれば即座に回復していた。

 グラノーラはいつでもそうだ。自分に被害がおよびそうなときは、こっそりと事前に『癒やしの手』の魔法をかけている」


 俺は驚きの目をグラノーラに向ける。グラノーラは、おずおずと片手を上げて「そうですよー」とつぶやいた。

 怪我をしたときに治すだけではなかったのか。怪我をする前に治す準備をしているのは知らなかった。


「いいか、アステル。グラノーラは魔法が達者だ。おまえとは違う。即座に魔法を使えて対処できる。魔法学校の生徒の上位層はだいたいそうだ。

 メザリア・ダンロスが『神の鉄槌』を使ったときもそうだ。グラノーラは、メザリアが鉄槌を出した直後に、『癒やしの手』の魔法をかけ終えていた。おまえが助けに入る必要は微塵もなかったんだよ」


 全身の力が抜けた。俺は自身の無力さに打ちひしがれる。


「まあ、物体化を自らの意思で発動できたのはよかったがな」


 俺は脱力したまま、マルの話を聞いている。


「ちなみに、おまえの体は、すでに物体化を発動できるようになっていた。ココルと戦ったときに、バカ貴族を窓から落としただろう。あれは、おまえの体を借りて、物体化で背中を押して落としたんだ」


 俺は、あんぐりと口を開ける。そういえばあのとき、上限まで溜めた魔力をほとんど使ってしまった。あれは物体化による消費だったのか。


「感想戦は以上だ。みなの者、何か質問はあるか?」


 真っ白になった俺をよそに、三人はマルに質問をしまくる。俺は質問する気力が湧かずに、ずっとその話を聞いていた。


「マル先生、私にも魔法を教えてください!」


 グラノーラが手を挙げて弟子入りを希望する。


「許可しよう」


「私も教えていただきたいです」


 ニーナも手を挙げた。


「うむ、許可しよう」


「私は、孫弟子ということで、これからもよろしくお願いします」


 ココルはマルに顔を寄せる。


「うむうむ」


 全員に言い寄られてマルは上機嫌だ。


「さて、アステル。改めて聞こう。おまえは魔法を学びたいか? 本来の目的のためには、別の道もあるわけだからな」


 婚姻や養子という、魔法以外の道もあると言っている。

 違う。俺が選びたいのは、そういう道ではない。俺は決意の表情で答える。


「学びたい。俺は自分の力で運命を切り拓きたいんだ。マル、俺が本物の魔法使いになれるように導いてくれ」


「分かった。任せてくれ」


 マルは大きくうなずいた。


「よし。これで方針は決まった。アステルは霊体化と物体化を実現して、純粋魔法を習得した。次の段階に進むのがいいだろう。

 新しい弟子たちを教えつつ、アステルの精霊魔法の修行を始めよう」


 マルは笑みを浮かべて言った。


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