6.4 顔合わせ
ガゼー地区の喫茶店の死闘は終わった。強盗たちは、ココルの手で完全に無力化された。
しばらくしてラパンの配下たちがやって来た。全てが終わったことを知り、俺たちとココルに礼を言って、店舗の清掃と復旧を手伝い始めた。
強盗たちは、そのあとに駆け付けた衛兵たちに引き渡した。死亡した強盗たちについては、多数の客の証言から正当防衛が認められた。いちおう貴族なので、強引に押し切る手もあったが、もめなくてよかった。
なぜココルが素早く飛び込んできたのか事情を聞いた。俺たちがこの地区に来たタイミングで、ラパンの配下が俺とグラノーラを見つけたらしい。
そのことはココルにも伝わり、念のために護衛として遠巻きに見張っていたそうだ。
「そうか、助かった」
「いえ、アステル様とグラノーラ様を守るのは、私の仕事ですので」
ニーナは事情が分からずきょとんとしている。落ち着いたタイミングで、説明しないといけないなと思った。
全てが終わり、店長が出してくれた飴湯を飲んでいると、ガゼー地区の顔役のラパンが店に入ってきた。
「世話になったな」
老人は頭を下げて言う。
「こういうことは多いんですか?」
俺はコップを傾けながら尋ねる。
「少し増えている。王都の各地で、縄張りを問わず荒らしている者がいる。そのせいで、血気盛んな組織が、他の地区を襲ったりしている」
「暗躍している者がいるということですか?」
「調べてはいるが、現時点では何とも言えぬ。あるいは組織ではないかもしれん。痕跡が少なすぎる」
「個人?」
「気づかれずに全てをやっているとすれば、何か人間離れした能力を持った者となる」
ラパンの言葉には含みがあった。ふつうの人間にはできない暗躍。それは魔法を持った者の仕業かもしれないということだ。
貴族が裏で動き回っているとは考えにくい。野良の魔法使いが王都にいるということだろうか。
「このまま帰るのか? 事務所に寄るのなら、今日の礼に食事を届けるが」
俺はちらりとココルを見る。ニーナにも事情を説明する必要がある。
「事務所に寄ります。食事は、お言葉に甘えましょう。この辺りは食事が美味しい店が多いので」
「それが、わしらの自慢だからな」
ラパンは笑みを浮かべて去っていった。
◆◆◆
俺とグラノーラとココルとニーナは、事務所に移動した。途中でココルに言って、他の店から椅子を借りてきてもらった。ラパンからは、美味しそうな食事が大量に届いた。
机の周りに椅子を並べてそれぞれ座った。机にはグラノーラが喜びそうな料理が並んでいる。
ニーナにどこから説明しようかと考えたタイミングで、俺以外の三人が驚いた声を出した。
どうしたんだと思い、彼女たちの視線の先を見る。机の上にマルが立っている。いつものことだと考えたあと驚愕した。他の三人にも見えているということか。
「自己紹介しよう。私はマルだ。アステルの体に転生した転生者だ」
緑髪に緑目の幼女が得意げに話す。声も三人に聞こえている。いったいどういうことかと混乱する。
「マル、これはどういうことだ?」
いつもの小声ではなく、ふつうに話した。マルは考えてみろとばかりに、視線を向けてくる。
こいつがこういう態度を取るときは、だいたい直近にヒントがある。俺は今日起きたことを思い出して、答えを導き出した。
「魔力の物体化」
「具体的には、どのようなことをしていると思うか?」
俺はマルの姿を観察する。半透明で、向こう側が透けて見える。物体だとしても、人間と同じ状態でないのは想像がつく。
俺は考えた答えを口にする。
「霊魂の目を持っていない者でも見えるように、色のついた細かな塵を錬成している。表面を覆う分だけの微量な塵なので透けて見える。音は空気を震わせている」
「よい生徒だ」
俺以外の三人は呆然としている。もうこうなったら話してよいだろう。俺は女性陣にマルの素性を伝える。そして魔法使いとしての修行を受けていることを話した。
「師匠の師匠ということは、大師匠ということですね」
ココルの言葉を聞いて、マルは胸を張る。
「まったく知らない歴史でした」
読書が好きなニーナも、まるで知らない話だったらしい。
「食事はどうしているんですか?」
「飲食は必要ない」
グラノーラは、食べることに疑問を持ったようだ。
「さあ、せっかくなので感想戦をしよう。さっきの戦いは、アステルの悪いところがいくつも出ていたからな」
マルは明るい声で言った。




