5.4 挿話:ニーナ・シャントン
シャントン家は、王都でも有数の富商である。王都の北側、第三街壁の内側に広い集積所を持っている。
集積所では毎日無数の馬車が行き交っている。そこには多くの卸商人たちが店を構えている。その中でも一際大きい建物が、シャントン商会の建物である。
ニーナは昔から本が大好きな少女だった。暇があれば本を読んでいた。ただし、それほど多くの暇があったわけではなかった。
シャントン家の子女は、子供の頃から商人としての修行をさせられる。馬車で遠方に行くこともある。商人たちに混じって目利きの訓練をさせられることもある。その隙を縫ってニーナは本を読んでいた。
あるとき、ニーナの父は魔法を買ってきた。困窮した貴族に援助することと引き換えに魔法を得たという。その魔法は、巡り巡ってニーナが所持することになった。勉強熱心なニーナなら、何か使い道を見つけるだろうと思われたからだ。
魔法を得たニーナは夢が膨らんだ。魔法学校に行けるかもしれないと考えた。物語によく出てくる舞台。貴族の子女たちが多く通い、魔法を持った人たちが通う絢爛たる場所。
それに、魔法学校には王都でも有数の図書館がある。そこにある本を読んでみたかった。その夢を父親に語った。父親は密かに動いてくれた。
そして、ニーナは魔法学校に入学して、宿舎に入ることになった。
魔法学校は、夢に見たような場所ではなかった。貴族たちの権力闘争の場所だった。
爵位もなく、親が買った魔法で入学したニーナは、かっこうのストレスのはけ口となった。
長い髪の毛はハサミを入れられた。教科書がなくなることは一度や二度ではなかった。悔しさよりも悲しさの方がまさった。本で読んだような物語の舞台ではなかったことが、一番のショックだった。
部屋でふさぎ込んでいたときに、二人の生徒がやって来た。フルール伯爵家のご令嬢、グラノーラ様と、ランドール男爵家のご子息、アステル様だ。
二人は、魔法学校で窮地に陥っている私のために訪れたという。そして、私のお友達になってくれるという。
まるで、本の中にしかない物語のようなお話。
グラノーラ様は、さらさらの金髪に美しい青い目の、お人形さんのような容姿の方だった。アステル様は、黒髪黒目で陰のある面影の方だった。
何よりも感動したのは、二人の仲睦まじさだった。伯爵令嬢と男爵子息という身分の違いはあれど、まるで夫婦のように気安く話し合っている。聞くと二人は幼なじみだという。
本で読む物語の主人公のような二人。なんて尊いんだと思った。
私は、二人の行く末を見ることを人生の楽しみにしようと思った。二人が身分の違いを超えて、添い遂げられますようにと願った。
二人に受けたご恩を返すという意味だけでなく、純粋に私の趣味として二人を応援したい。数多の物語を読んだニーナは、そうした思いを胸に秘めた。




