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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第25章 偽物の魔法使い

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25.9 大魔法使いの塔

 貴族同士の話し合いはグラノーラが引き受けた。こうした面では俺はポンコツだ。俺たちは事務所で、グラノーラに口裏合わせのための指導を受けた。


 貴族たちのあいだでは、平民の常識は通用しない。真実は重要ではない。貴族間の力関係や姻戚関係での落とし所というものがある。国に伝達する双方合意の情報がある。

 だから何も考えずに、グラノーラに教えられたとおりに答えるようにと言われた。


 俺たちは脳みそを空っぽにして、記憶した言葉を繰り返す機械になり、グラノーラが書いたシナリオどおりに進むようにした。

 またグラノーラは、フルール家の金庫からフィーに仕事の報酬を支払った。

 事務所にはダンロス家からお詫びの品が届き、ココルは衣装棚と高そうな服を何着ももらった。

 メザリアの指示に従ったムジカ・フロアは、ダンロス家で身柄を預かることになった。


 単眼鬼を封じたガラス瓶は、魔法学校の敷地内にある倉庫に収めることになった。

 図書館と同じように倉庫には地下室があり、表には出さないものが収納されているという。その場所に、霊体を充填した封印箱の中に入れて保管されることになった。


 その他、ごたごたとしたことがあり、飛ぶように日数が過ぎていった。表面上は、何事もなかったかのように全てがおさまった。


  ◆◆◆


 ――九月下旬。


 一週間ほど経って魔法学校に復帰した。単眼鬼と戦うために魔法を開発していた時期と合わせると、二週間も休んだことになる。

 学年主任だったパロスは学校に復帰していない。このまま戻って来ないのだろう。


 教室に入り、自分の席に着く。誰も話しかけて来ないのはいつもどおりだ。暇だな。パロスの部屋から運び出した本を一冊鞄に入れている。ページを開き、読んで時間を潰した。


 授業が始まった。いつもの日常が再開する。午前の授業を受け、食堂でグラノーラたちと一緒に食事をとり、午後の授業を受けて放課後になった。


 食堂でお菓子を調達してグラノーラの部屋に向かう。ノックして中に入り、ニーナとウルミが来るのを待った。

 四人がそろってお茶会を始めたら扉がノックされた。俺たちを訪ねてくる者など、これまで皆無だった。いったい誰だろうと思い、俺は扉を開けに行った。


 廊下にメザリア・ダンロスが立っていた。

 俺よりも背が低いくせに、俺を見下ろす勢いで態度がでかい。

 グラノーラが、あらお客様ね、とにこにこして言った。いや、客というより厄介事だろう。俺は表面上は笑顔を浮かべながら、どのようなご用件ですかと尋ねた。


「グラノーラさん、アステルさん、その他のみなさん、付いてきなさい」


 何だ、何だ。いったい何の用だと警戒する。

 グラノーラは立ち上がる。


「さあ、みんなで行きましょう」


「お嬢、さすがに軽率じゃないか」


 俺は、いさめる声で言う。


「ニーナ、ウルミ、二人も付いて来て」


 グラノーラに言われて、困惑しながら二人も立ち上がった。

 仕方がない。俺も従い、四人でメザリアのあとについて廊下に出た。


 メザリアの先導で宿舎を出る。どこに連れていかれるんだと思いながら大人しく従う。

 この道は知っている。俺はげんなりしながら足を動かす。視線の先には記念館が見えてきた。ダンロス家の部屋に連れていかれるのかと思い、身構えた。


 石造りの建物に入った。メザリアを先頭にして広い廊下を歩いていく。

 ダンロス公爵家の紋章が刻まれている重厚な扉が見えてきた。とりあえず警戒しておこうと考える。

 廊下を曲がった。あれっと思う。行く先は、俺が思っていた場所ではないのか。


「ここよ」


 メザリアは、古びた扉の前で足を止めて振り返った。


「これが鍵よ」


 メザリアは手を伸ばして、グラノーラに鍵を渡した。


「これで借りは返したわ」


「ええ、ありがとうございます、メザリアさん」


「それと、アステルさん。あなた、うちの派閥に入りなさい。こんな女狐のもとにいるのではなく、まともな私のもとで働きなさい」


 メザリアは、なぜかグラノーラを非難している。


「ごめんなさいね、メザリアさん。アステルは私に忠誠を誓っているの。ねっ、アステル」


「あ、ああ」


 メザリアは、グラノーラを嫌悪するような表情をしたあと去っていった。

 廊下からメザリアの姿が消えたあと、俺はグラノーラに尋ねた。


「いったい、何があったんだ?」


「ダンロス家の不祥事をもみ消す代わりに、記念館に私たちの派閥の部屋を用意してもらったの。メザリアさんと、彼女のお父様は、快く引き受けてくれたわ」


 嬉しそうにグラノーラは言う。

 どんな脅迫をしたんだ。グラノーラの性格から考えて、両家が血みどろになるまで殴り合っても構わないと言ったのか? あるいは、もっとえげつないことを言ったのか?


「どんな話をしたんだ?」


「うん? 少しだけ弱みを握って、それをちらつかせただけよ」


 ああ、これは、女狐と言われるなと俺は思った。


 グラノーラは上機嫌だ。楽しそうに鼻歌を歌いながら、鍵を開けて中に入る。


「あちゃー、けっこう埃だらけね。仕方がないわね。みんなでお掃除しましょう!」


 グラノーラは腕まくりをする。俺は部屋を見渡した。


「バケツと雑巾を探してくる」


「ホウキとチリトリもお願いね!」


 俺が歩きだすと、ニーナとウルミも付いてきた。


「ココルもここに来られるよにしたいな」


「そうですね」


 ニーナがいくつか案を出し、その横でウルミが感心した様子で首を縦に動かした。


 俺たちは掃除道具を探して部屋に戻ってきた。


 グラノーラは部屋の前に立ち、扉をながめている。


「どうした、お嬢?」


 珍しく真面目な顔をしているから声をかけた。


「部屋の入り口に、何を掲げようかなと思って」


「フルール伯爵家の紋章でいいんじゃないか?」


 メザリアが使っている部屋は、文字はなくダンロス公爵家の紋章が刻まれていた。


「あの……」


 ニーナが控えめに手を挙げた。


「何か、アイデアがあるのか?」


 俺は顔を向けて尋ねる。


「木彫りの塔の絵はどうでしょうか。大魔法使いの塔の絵です」


 俺とグラノーラは視線を交わす。ウルミは、「それ、いいですね!」と声を上げる。


「いいんじゃねえのか、お嬢」


「そうね。私たちにふさわしいわね」


「はい、はい、私が作りまーす!」


 ウルミがぴょんぴょん跳びながら手を挙げた。


 数日後、俺たちの派閥の部屋の扉に、一つの木彫りの風景画が掲げられた。荒野に立つ大魔法使いの塔だ。マルに尋ねて、ウルミが彫ったものだ。


 ここが新しい大魔法使いの塔になるのだ。


 俺たちは新しい部屋で、魔法研究の活動を再開した。


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