25.7 魔法対決
俺は、ガゼー地区の空き地に姿を現した。空き地にはメザリア・ダンロスの体に入った単眼鬼と、ダンロス家の兵士たちが十人いる。
「一人か?」
メザリア・ダンロスに入った単眼鬼が尋ねてきた。
「んなわけねえだろう」
俺は吐き捨てるように答えて現状を確認する。
兵士たちはメザリアを円状に囲んでいる。背後から仲間が攻撃するのは無理みたいだ。どうにかして壁役の兵士たちを倒さなければならない。
「魔法対決って、どうするんだ? 俺は偽物の魔法使いだから、やり方なんか知らないぞ」
ちまちまとやっていれば、俺が不利なのは目に見えている。こちらは基本的に自分の魔力だけだ。『張りぼての物真似』を使うときには領民の魔力を使えるが、それ以外の戦闘に使えるわけではない。
メザリアが所有する複数の魔法は、ダンロス公爵家の領民と繋がっている。力押しでは絶対に勝てない。魔力を節約しながら、突破口を開かないといけない。
俺は兵士を指差して『瞬雷』の魔法を使う。兵士が一人硬直して倒れた。すぐに次の兵士に指を向ける。その瞬間、空中に盾が現れ、雷を食い止めた。
「『鉄壁の盾』」
メザリアが不敵な笑みを浮かべる。ダンロス家が所有している魔法の一つか。鉄槌、盾と、金属を錬成する魔法をいろいろと所有しているようだ。
「『矢の雨』」
空中に無数の矢が現れる。無尽蔵の魔力かよ! その矢の数に俺は圧倒される。
相手は公爵家だ。俺とは領民の数が根底から違う。俺は悲鳴を上げたくなった。
飛んできた矢のいくつかを、ココルの精霊瓶の『風刃』の魔法で切り刻む。しかし、全てを破壊することはできない。俺に向かってきた残りは、剣で叩き落とした。
くそっ、防御力も火力も違う。兵士の数を減らさないといけないが、『瞬雷』は盾で防がれる。霊撃で一人ずつ倒していると魔力が尽きかねない。
「横に走って!」
グラノーラの声が響いた。どんな作戦なのか何の説明もない。俺は反射的に横へと走った。
メザリアも、俺との距離を取って付いてくる。彼女を囲む兵士たちも移動した。
兵士たちが足を滑らせて次々と転ぶ。一瞬、何が起きたのか分からなかった。ウルミの『滑る』の精霊瓶だ。これはうまい使い方だなと思った。
メザリアは転ばなかった。単眼鬼と最初に戦ったときのように、物体化で地面の上に足場を作って避けたのだ。
メザリアは足を止めて兵士たちに指示を出そうとする。その瞬間、顔をしかめて両耳を押さえた。ニーナの『音包』の精霊瓶だ。メザリアの周りで大量の騒音が響いているのだろう。
グラノーラの指揮で、メザリアを兵士たちから切り離すことができた。俺はメザリアとの距離を詰める。視界の隅で、グラノーラが飛び出したのが見えた。
メザリアの魔力が膨らむ。次の魔法が来ると警戒する。メザリアの体が金属の鎧で包まれる。そして掲げた両手に鉄槌が握られる。『神兵の鎧』と『神の鉄槌』の魔法だ。
「シフ、目だ」
俺が最初に作った風の人工精霊に霊餅を与えて命令する。『瞬雷』『風刃』の精霊瓶の魔法も使う。
『瞬雷』と『風刃』は、メザリアの盾が飛んできて防がれた。自身が飛び、柔軟に命令を遂行できるシフだけが、盾を避けて目標へと向かう。
風がメザリアの目を一瞬閉じさせる。俺は敵の死角に移動する。
相手も魔法使いだ。霊撃は弾かれる可能性がある。剣で刺し殺すのは駄目だ。公爵令嬢を殺害するのはまずい。
剣を横に振りかぶる。刃ではなく峰で攻撃する姿勢を作る。俺は体重を乗せて剣を叩き込む。
衝突する瞬間、体重が倍になった。グラノーラの精霊瓶の魔法『重量増』だ。
メザリアの体が吹き飛んだ。体を覆っていた鎧がひしゃげている。あばら骨を何本か砕いたはずだ。周囲で魔力が膨らんだ。何か魔法をかけてくる。
俺は横に跳んだ。巨大な火球が現れて空気を焼く。炎は俺の右腕と右脚を包む。急いで転がって火を消した。
メザリアの魔法ではなく、単眼鬼自身の魔法か。
火傷で激痛が走る。その火傷が見る間に回復する。グラノーラの『癒やしの手』の魔法だ。
空気を切る音が複数聞こえる。素早く剣を振って全て切断する。鋼線だ。単眼鬼自身の魔力しか乗っていないから、威力は弱い。
俺は、全身の神経を研ぎ澄ませながら、地面に転がっているメザリアのもとに走った。
必殺の間合いまでたどり着く。何かおこなえば、頭蓋骨を瞬時に貫ける距離だ。ただの殺し合いなら、とどめを刺して終わりだ。しかし、これはそういう勝負ではない。
「お望みどおり、魔法対決をしてやるよ。おまえの魔法を打ち破ってやる」
俺は『張りぼての物真似』の魔法を使い、ウルミの『取り外し』の魔法を真似る。背後でグラノーラが魔法を使う。俺たちが作った魔法を呼び出して、『取り外し』の魔法に合体させた。
新しい魔法を一から作る時間はなかった。
しかし、既存の魔法を改造して機能を改変することはできる。
ウルミの魔法は、物体の部品を取り外せるものだ。その動作を変えて、霊体の部品を取り外せるものにした。
俺はありったけの魔力を注ぎ込む。グラノーラも魔力を乗せてくる。俺たちは、メザリア・ダンロスの体から、単眼鬼の霊魂を引き剥がそうとする。
霊体の悲鳴が上がる。不快な霊魂の声が、魂を振動させる。
単眼鬼の霊魂が肉体から切り離された。
俺は空の瓶の蓋を外して虚空に掲げる。ガラスに霊体を充填して、霊魂や精霊が通れないようにしたものだ。
俺は純粋魔法を使う。霊体化で袋を作り、瓶の中へと単眼鬼の霊魂を押し込める。激しい抵抗で押し返される。俺は懸命に魔力を込める。しかし、戦いのせいで魔力が尽きかけようとしている。
グラノーラが駆けてきて、瓶に押し込む後押しをしてくれた。ニーナとウルミもやって来て一緒に魔力を込める。
霊体の声の悲鳴が続く。
全員で単眼鬼を瓶へと詰めていく。
霊魂が完全に入った。ガラス瓶の蓋を閉じる。単眼鬼を封印した。俺たちは敵を完全に捕らえた。




