24.9 魔法使いの戦い
モンパス家の屋敷の地下にいる。メンバーは、俺とココルとフィーとゾーイの四人だ。ゾーイの『飢えた猟犬』の魔法を使い、霊茸のにおいを追ってここまで来た。
「いったん地下室は出よう。逃げ場がないからな」
そう答えた直後、上の方で扉が開く音がした。俺たちは顔を見合わせる。四人が隠れられるような場所はない。倒すしかないかと思い、身構えた。
階段を下りてくる足音が聞こえる。全員が部屋の入り口の横に移動して階段から見えないように陣取る。霊魂の目で相手の姿を確かめようとする。
歩いていた相手が停まった。こちらに気づいたようだ。階段の人間は一歩引き返す。人を呼ばれては困る。俺は壁越しに霊撃を打ち込んだ。
相手の近くで霊撃が叩き落とされた。魔法に精通している相手。それも純粋魔法を使える者だ。
単眼鬼の名前が頭に浮かぶ。それなら手加減はしない。俺は飛び出して、階段の上に向けて精霊瓶を掲げる。『瞬雷』の魔法を使った。
階段の上には痩身の男がいた。着ている服の布地は滑らかで鮮やかだ。屋敷の主人のマイデルに違いない。
雷撃が閃き、マイデルの体を硬直させる。俺は剣を抜き、階段を駆け上がる。背後から仲間たちも付いてきているのが気配で分かった。
微かな死臭がする。マイデルはよろめきながら階段を上り、扉を閉めようとする。微かに風を感じたあと、マイデルの指が数本、ぼとぼとと落ちた。
ココルの『風刃』の魔法だ。俺は扉を開けて、マイデルに剣を突き立てようとする。
マイデルの魔力が膨らんだ。魔法に魔力を流し込んでいる。マイデルの手が俺に向けて突き出される。俺は攻撃を警戒して横に跳んだ。
俺がいた場所から熱風が吹いてきた。炎の塊が膨らんだあと消えていく。『火炎』の魔法か。おそらく部品の数は一つか二つ。シンプルだが焼き殺すだけなら効果的な魔法だ。
「また、おまえか!」
マイデルは怒りの声を出す。単眼鬼で間違いない。俺は剣を構える。ココルとフィーが地下室から上がってきた。ゾーイは扉の陰で身を潜めている。
フィーが、廊下の先に霊撃を飛ばした。
何だ?
廊下の先に、倒れた家政婦の一部が見えた。俺は気づかなかった。フィーは長年の経験で気づいたのだ。
俺の注意がそれたのが分かったのだろう。その隙を逃がさず、マイデルが距離を詰めてきた。
腰を入れて、拳を俺の腹に向けて突き出そうとする。
嫌な予感がして避けた。この局面で、殺せないのに徒手で攻撃をするはずがない。
俺がいた場所に紅蓮の炎が湧き起こる。先ほども手を突き出していた。その動作を合図にして、炎を出す魔法なのだろう。
「ちっ、相性が悪い」
フィーの魔法は『氷の刃』だ。あの炎なら溶けてしまい、有効な斬撃にはならないだろう。
「ココル。両腕を切り落とすぞ」
「はい!」
左右に分かれて距離を詰める。上級神官と決闘代行なら、後者の方が圧倒的に接近戦に慣れている。俺とココルは、マイデルの両腕を剣でぶった切った。
マイデルの二本の腕が床に転がる。鮮血は飛び散らない。死体で心臓が止まっているからだ。
今度は逃がさない。剣の刀身を霊体で包む。そしてマイデルの体に入った単眼鬼を、肉体ごと両断しようとする。
「アステル、退け!」
マルの声が鋭く響き、俺は踏みとどまって背後へと飛ぶ。マイデルの体が猛火に包まれる。天井まで届く巨大な炎の熱に、俺は慌てて後退する。
「魔法の発動条件は一つではないぞ」
そうだった。俺が作った精霊瓶は一つの魔法回路しか組み込まなかった。複数に分岐する魔法も作れることは知識としては知っていた。しかし、実感として理解していなかった。
「体が一定以上傷つくと発火するようにしておいたのだろう」
炎の勢いが強すぎて近づけない。単眼鬼の霊魂の気配が消えた。また取り逃してしまったようだ。
「ここから急いで立ち去るぞ!」
フィーが鋭く言う。
そうだった。この火だ。人が集まる。その前に脱出しなければならない。
「ちっ、窓を壊せ。外に出るぞ」
言われたとおり窓を破壊して全員が通れるようにする。俺たちは、火事で駆け付ける屋敷の使用人たちの目から逃れ、モンパス家の屋敷をあとにした。




