24.8 屋敷への侵入
単眼鬼が現在潜んでいるであろう場所が分かった。転生神殿の隣の隣にあるモンパス家の屋敷だ。
おそらく単眼鬼は、モンパス家の当主であるマイデルの体に入っている。そして、有能だと評判なマイデルの知識と知恵を使って、天使教を構築して運用している。
俺とフィーとゾーイとココルは、モンパス家の屋敷が見える路地で、これからどうするか打ち合わせをした。
「屋敷に潜入してマイデルと対決したいところだが、ふつうに考えて無茶だよなあ」
俺はフィーに意見を求める。
「相手は、転生神殿と同じ地域に屋敷を持っている権力者だ。屋敷には人も多くいるだろうし、警備の人間もいるだろう。
マイデルが死んで乗っ取られているのなら、外出なんかしないだろうな。権力者だから、自分で動かずに他の者に指示すればいいだけだ。こっそりと侵入するにしても、かなり難しい部類に入ると思うぜ」
「だよなあ」
俺は途方に暮れる。さすがに上級神官に伝手はない。どうやって接触しようかと考える。
「なあ、フィー。こういうときは、ジンではどうするんだ?」
「ああん? そんなのペラペラと話すかよ。
まあ、ふつうは時間をかけて潜入する。買収したり、使用人と入れ替わったり、行けそうなところを調べて突破する。その場ですぐに潜り込んだりしねえよ」
「そりゃあ、そうか」
フィーは暗殺が本業だ。高額の依頼を受けて、十分な時間をかけて標的に近づく。しかし俺は学生で、金もなく、長い時間をかけるわけにもいかない。
「裏口から侵入する」
「鍵は?」
「開けられる」
純粋魔法の物体化を使えば、扉の向こうの錠を外すことができる。
「裏口から入って、誰かがいたらどうするんだ?」
「霊撃で昏倒させる」
「数が多かったらどうするんだよ。一人でも声を上げたら終わりだぜ」
「三人なら、何とかなる」
「ああん?」
「俺と、ココルと、フィーの三人だ。全員霊撃が使える。瞬時に離れた場所の相手を昏倒させられる」
「ちっ」
「お嬢様、いいんですか?」
「やばそうなときは、屋敷内の人間を殺すぞ」
「関係のない者は殺すな」
「注文が多いやつだな」
俺たち四人は屋敷の裏手に回った。ゾーイは霊撃は使えないが、茸のにおいを追うために、ついてきてもらった。
屋敷の裏口を見つけた。霊魂の目で扉の向こうを調べる。人はいない。鍵はかかっていない。不用心だなと思ったが、日中は出入りする人間が多いのだろう。
建物全体を探索できればよいのだが、さすがにそれほど広い範囲を見るのは難しかった。
扉を開けて中に入る。屋敷の主人のマイデルがどこにいるのか分からなかった。
「誰か捕まえて尋問するしかないか?」
「茸が通った廊下まで行けば、においをたどれます」
ゾーイが小さな声で言う。
俺はうなずき、廊下を窺う。誰もいない。
まずは出入り口の近くに行き、茸のにおいを拾って『飢えた猟犬』で追える状態にしないといけない。
俺たちは、周囲を警戒しながら移動した。途中で二人昏倒させて、空いている部屋に放り込んだ。
「ここからたどれます」
勝手口の一つに近づいたところでゾーイが言った。俺たちは茸の追跡を再開する。
茸は地下室に運び込まれていた。俺たちは地下へと下りていく。そこには屋敷の主人のマイデルはいなかった。
地下室には、茸の鉢が所狭しとあった。それとは別に、机や本棚があり、ここで作業しているのが分かった。
俺は本棚を見ていて目を留める。記憶にある紙の束があった。
「どうした?」
フィーが尋ねてくる。俺は紙の束を広げる。
「図面だ。時計職人の地下室にもあっただろう。あれは途中の番号から始まっていたから、その前のものもあるはずだと話していただろう。
見ろ。一番から順番に並んでいる。けっこうな量があるが、できれば持ち帰りたい」
「邪魔だろう。置いていけよ」
「いや、これはあとで絶対に必要になる」
俺は強く主張する。マルに解析させれば、何をしようとしているのか分かるかもしれない。
「私が持ちます」
ココルが手を伸ばす。
「いや、私が持った方がいいでしょう。この中で一番戦力として使えないのは私ですから」
ゾーイは懐から紐を出して、手早く紙の束を縛って背負えるようにした。
「さて、振り出しに戻ったぞ。どうするアステル?」
フィーは、さっさと決めろよという顔をした。




