24.7 神殿と神官
ゾーイの『飢えた猟犬』で、俺が返した茸のにおいを追う。
王都の裏道を複雑に抜けていく。途中で馬車が多く集まる停車場も通過した。あるいはここで御者が交代したのかもしれない。
俺たちはゾーイのあとに従い、王都の中を歩き続けた。
「まさか、ここにたどり着くとは思わなかったですね」
ゾーイが、頬を引きつらせて建物に視線を向ける。ゾーイの視線の先には転生神殿があった。
馬車は神殿の敷地内に停まっている。馬車は一台だけではなかった。十台ほどが柵の向こうに並んでいた。
「どうしますか、アステル様。さすがに踏み込むわけにはいかないです」
ゾーイが助けを求めるように俺の顔を見る。
「あそこには知り合いがいる。ちょっと話を聞いてくる」
俺は裏口に向かい、帽子を取って中に入った。
転生神殿に裏口から入る。下級の神官や雑用夫たちが多く詰めている。雑用夫の一人に声をかけて、エピス神官を呼んでもらった。
しばらくすると赤ら顔の神官がやって来た。
「アステルくん、久しぶりだね。元気にしていた?」
一年生の初めの頃には、よく訪れていた。マルを転生させてからは訪れていないので、一年ほど空いてしまった。
「ええ、元気です。エピスさんは?」
「僕も元気だよ。アステルくん、悩んでいるような表情がなくなったね。何か知らないけど、うまくいっているんじゃないの?」
「ええ、おかげさまで」
エピスは、僕のおかげではないだろうけどね、と明るく笑った。
いや、エピスのおかげだと俺は思った。あの時期、相談にのってもらい、『転生』の魔法を真似たことで、魔法の道が開けたのだから。
「そういえば、今日は何の用なの?」
「いえ、神殿の庭に馬車が何台も停まっていたから、何かあったのかなと」
「ああ、あれね。上級神官のマイデルさんがね、私用で使っているんだ。
一ヶ月ぐらい前からね。馬車をあそこに停めて、荷物を近くのマイデルさんの屋敷に運び込んでいるんだよ」
「荷物って何ですか?」
「さあ。木箱に詰めているから分からないなあ。屋敷から木箱を持った人が来て、馬車に乗り込み、木箱を持って去っていくんだ。
だから下級神官の僕たちは、あの馬車のことを木箱馬車と呼んでいるよ」
エピスは楽しそうに話してくれる。
「上級神官のマイデルさんって、どんな方ですか?」
「痩身で目つきが鋭くて厳しい人だね。身分が低い人への当たりが強いんだ」
げんなりした顔をエピスはする。
「仕事はどうなんですか?」
「有能だよ。博識だしね。でも、この一ヶ月ぐらい見ていないなあ。今は木箱馬車のせいで、神殿ではちょっと評判が悪いよ」
マイデルという上級神官は、すでに死んでいるかもしれないと思った。
「マイデルさんの屋敷って、どこなんですか?」
「馬車を停めている庭側の、隣の隣だよ。貴族ではないけど、半分貴族みたいなあつかいの家だね。当主は上級神官になることが決まっているし、筆頭神官を過去に何人も輩出している家だしね」
「家名は、何と言うんですか?」
「モンパス家だね。マイデル・モンパスが正式な名前。まあでも、家名で呼ぶことはあまりないね」
俺はお礼を言って、転生神殿から出て行った。




