24.6 茸の追跡
翌日、早朝にこっそりと学校を出て事務所に行った。木箱に収めた茸を持ってきている。また、タタカ洞窟で作った精霊瓶も、専用の革袋に入れて腰にぶら下げている。
事務所に行くと、ココルも準備を終えていた。胸甲や手甲を着けて帯剣している。腰には精霊瓶も提げている。実際に外に出るときは、フード付きのマントを羽織る予定だと話した。
「私は、アステル様やグラノーラ様のように弓矢が使えません。なので、『風刃』の精霊瓶を作れたのが嬉しいです」
ココルは表情を輝かせて言った。霊撃はできるが、物理的な攻撃方法がなかった。『風刃』のおかげで、その面は強化される。
いちおう簡単な変装をしておこうということで、俺は用意しておいた顔が隠れる広いつばの帽子をかぶった。
少しするとフィーとゾーイが来た。二人とも化粧で顔を変えている。また、尾行しやすい目立たない格好をしていた。
まずはゾーイが『飢えた猟犬』の魔法を使う。追跡のために、茸の霊魂のにおいを記憶する。茸には、不審がられないように、ある程度の魔力を込めておいた。
茸の魔法にかからないように、自身の体を薄い霊体の膜で覆う。また、自身の魔力の放出を抑えた状態で茸を持った。
「よし、準備はできた。行こう」
俺たちは事務所を出る。まだ空は夜の気配が残っている。俺は三人と別れて、集会場所になっている市場近くの掲示板のある広場へと向かった。
広場にはすでに十人ばかりが来ていた。八割以上が女性だ。
魔法学校でも、天使教にはまっていたのは女性ばかりだった。女性の方がコミュニケーションが好きなので、広まりやすいのかもしれない。
ココルが聞いてきた話だと馬車が来るはずだ。
待っていると一台の馬車が広場に入ってきた。幌の付いた荷馬車だ。幌には、一目で天使教と分かるように教団名を書いた旗が取り付けてある。馬車は停車して、御者が降りて手を叩いた。
「みなさん、お久しぶりです。ガゼー地区担当の、天使教伝道師です。
悪い気を、茸にたっぷりと吸ってもらいましたか? 回収して、きれいに浄化した茸をお渡しします。また、素晴らしく貢献してくださった方には、茸の鉢を二つ、三つとお渡しします」
全員、すごい勢いで伝道師に群がる。馬車から部下が二人降りてきて列を作らせる。伝道師もその部下も一様に顔色が悪かった。
立場は違えども、魔力を奪われているのは同じなのだろう。俺は列に並んで順番を待つ。自分の番が来た。初めての人ですねと言われたので、そうですと答えた。名前を聞かれたので、適当な偽名で答えておいた。
茸を渡して、新しい茸を渡される。初回なので交換だけだ。
他の信者を見ていると、誰々に布教したいからもう一つ欲しいなどと交渉している。ああいった積極性がある信者に茸を多めに渡しているのだろう。
新しい茸を手に入れた信者たちは、解散を待たずに帰っていく。俺も帰る振りをして、馬車を追える位置に身を潜めた。
全ての信者が帰ったあと、伝道師一行は馬車に戻った。おいおい説教とかないのかよ。茸をやり取りするだけなのかよ。雑な宗教だなと思った。
馬車が動きだした。歩く程度の速さだから、少し離れた場所から歩いて追える。少し離れた場所には、ココルやフィー、ゾーイもいるはずだ。見失ったら、ゾーイと合流すれば追跡することができる。
しばらく王都の中を進んだあと、人気のない場所で馬車は停まった。伝道師と部下が出てきて去っていく。
中年男性がやって来て、幌に付いていた天使教の旗を取り除いた。馬車はたちまち、どこにでもある目立たない姿に変わる。中年男性は御者席に座り、馬に鞭を入れた。
馬車は再び走りだす。今度は先ほどよりも速い速度だ。走らなければ追い付けなさそうだ。どうするか。走って追おうとすると肩に手を置かれた。
振り向くとフィーがいた。少し離れたところに、ココルとゾーイがいる。
「走ると気づかれるぞ。ゾーイが追えるからいったん諦めろ」
「分かった」
直接の追跡ではなく、魔法での追跡に切り換えることにした。




