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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第24章 教団調査

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24.5 南方の捕虜

 校舎に入り、パロスの研究室の前に来た。扉からは明かりが漏れている。まだ中にいるのだろう。

 薄い霊体の膜を作り、頭部を包む。魔法で心を読まれないようにするためだ。


 扉をノックする。パロスの声が返ってくる。名前を告げて扉を開ける。いつものように机で書類を整理しているパロスの姿が見えた。


「どうしたのかね、アステル」


「見ていただきたいものがあります」


 木の箱を掲げ、パロスの机まで行く。俺は箱を机に置く。パロスが説明を求める。天使教が学校で流行り始めており、その信者がこの茸を配っているという話をした。


「中を見てもよいかね?」


「箱の中に手を入れなければ大丈夫です。近づくと魔力を吸ってきますし魔法をかけてきます」


 パロスは箱の蓋を開けて、中をのぞき見た。


「先生は多くの書物を読まれていますから、こうした茸について何かご存じかと思いまして」


 パロスは蓋を閉じる。そして本棚の前をうろうろしたあと、一冊の本を引き抜いて見せてきた。


 『南方戦役史 マガス王国討伐編』


 本のタイトルを見て俺は驚く。祖父が参加した戦争についての本だ。


 手渡された本の目次を見る。前半は戦役の勃発から終結までの流れが書いてある。後半はマガス王国の自然や風俗についての調査結果がまとめられている。


「この本を読んだことはあるかね?」


「いえ」


「ランドール家なら所有していてもおかしくないと思うのだが、きみの祖父は興味がなかったようだね」


 パロスは、祖父が戦功を上げたことを把握しているようだ。


「祖父をご存じなのですか?」


「戦役の終盤に何度も名前が出てくる。終戦後に貴族になったこと、その過程でもめたこと。そうしたことも、史書にきちんと記録されている」


 この先生は、生徒たちの家の歴史も頭に入っているのだろう。


「後半のマガス王国についての調査資料の中に、霊茸という茸が出てくる。その中で奴隷茸の話があり、一ページにわたり説明が掲載されている。

 戦争捕虜を茸に依存させて奴隷のようにあつかうことができる。軍事上も重要な情報だっただろうから、詳しく記載されているのだろう。


 ランドール家では、こうした情報は詳しく継承されていると考えていたが、そうではなかったのかね?」


 霊茸については、歴史に当たることができる人なら知ることができると、パロスは言っている。そして、何よりもランドール家の人間が詳しいのではと尋ねている。


 あるいは、俺が関わっているのではないか。パロスの言葉は、そうとも読み取れる。


「パロス先生は、南方の出身ですか?」


 話の矛先をそらすために違う質問をする。パロスはわずかに動きを止めたあと、こちらを見た。


「そうだ。四十年ほど前の戦役でね。捕虜になってこの国に連れてこられた。まだ子供だったがね」


 子供で捕虜になったということは、王族かそれに近い貴族だったのかもしれない。


「南方はね、大魔法使いの塔の生き残りが、多く移住した地の一つだよ。

 魔法研究に関わっていたけれど、ザラエル王国の貴族になることを望まなかった者たちだ。彼らは新天地で、魔法の発展を目指した。

 その結果、どうなったと思うかね?」


 質問を振られ、俺は考える。俺もパロスも、興味の方向は一致している。


「研究はある程度進んだんじゃないですか。多くの魔法使いが移住したのなら」


 パロスは首を横に振った。


「劣化版のザラエル王国になったよ。魔法使いは権力者になり、研究は途絶え、王族や貴族に魔法は集まっていった。


 きみの祖父が倒したマガス王は、十以上の魔法を所持していた。転生神殿がないマガス王国では、魔法は王冠や王笏のような、権力を象徴する宝飾品になっていた。

 マガス王は、魔法を多く持っていたが、そのほとんどは使えなかったそうだ」


 知らなかった話だ。自分の知識は狭い範囲なのだと思い知る。


「霊茸を使い、大量の魔力を集めている人がいるとします。その人物は、何をしようとしていると思いますか?」


「強い魔法を使う。複雑な魔法を作る。あるいはその両方」


「そうした知識を持っている人は、どれぐらいいますか?」


「そこそこいるのではないかな。私のように国外からの移民、裏社会で魔法を保持している集団、遺跡や洞窟の調査をしている者。きみが所属しているグループも、古い魔法の知識を持っている」


 俺の立場から見れば、パロスが単眼鬼と繋がっているのではないかと見えるように、パロスの立場から見ると、俺たちが暗躍しているように見えるというわけか。


 少なくともこの王都には、古い魔法の知識を持つ者が三組いる。俺のグループと、単眼鬼と、パロスだ。この三組が、それぞれ影響を与え合えば、いったい何が起きるのか。


「パロス先生。ばらばらの場所にある魔法の知識が出会うと、何が起きると思いますか?」


 パロス自身が、この状況をどう考えているのかを知りたかった。


「過去に一つの答えがある。大魔法使いの塔。それが復活して、魔法の進歩が始まるのではないかな」


「魔法学校の勉強とは違う、真の魔法教育が誕生する?」


「そうした時代を、この目で見てみたいとは思うがね」


 パロスは『南方戦役史 マガス王国討伐編』を借りるかねと尋ねてきた。


「お借りします」


 俺は、茸を収めた箱の上に本を置き、パロスの研究室を出た。


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