24.2 市街への浸食
その日の夕方は事務所に行った。ある程度調査してから集会に行った方がよいと判断したからだ。
事務所に顔を出した俺は、ココルに天使教の話をした。
「ガゼー地区でも、天使教にはまっている人が出ています」
街を歩いていて、何度か話を聞いたとココルは言った。
「集会がどんな様子だったか、情報を集めて欲しいんだ」
「分かりました」
「それと、フィーに接触しようと思う」
「今なら、がらくた通りの豆占いのおばあさんに仲介を頼むのが早いと思います」
フィーたちの暗殺組織ジンは、王都の裏路地にいる占い師たちを連絡係として利用している。占い師たちにとっては副業だ。ジンへの取り次ぎを頼めば、そこからジンに依頼が届く。
面倒な仕組みだが、表通りに暗殺業などの看板を出すわけにもいかないから、仕方がないのだろう。
俺はココルと別れて、がらくた通りに行く。豆占いって何だと思いながら占い師を探す。
フードをかぶった、それらしいおばあさんがいた。袋に手を入れて豆をいくつか取り出し、その色の組み合わせで占いをしてくれるらしい。
「ジンへの連絡を頼む。決闘代行のアステルが会いたいと言っている。フィーとゾーイに用があると伝えてくれ」
俺は銀貨をポケットから出して渡す。
「ついでだから、占っていきなさい。占いはサービスだ」
老婆はにかっと笑った。
まあ、これも付き合いかと思い、袋に手を入れて豆を引く。黒、黒、赤、緑。
「むむむむむ、暗闇の中、赤き血が流れ、緑の道が開けるであろう」
何だそりゃ。色を適当に繋げているだけじゃないか。
「あんた、その若さで、ジンなんかと付き合うのは、ほどほどにしておきなさいよ。ろくな死に方しないよ」
「それはまあ、正論だな」
俺は老婆に礼を言って別れた。
ついでに狭い道を何度か曲がり、ラパンのアジトに行く。
「ふむ、天使教か。最初に聞いたのは三週間ちょっと前だな。
男性から相談があってな。妻が茸を育て始めてから、ずっと顔色が悪いし、天使教のことしか話さなくなったという内容だった」
「天使教殺人事件があったのが、その時期ですよね」
「ああ、相談を受けて翌日ぐらいには事件の話を聞いた。いつの間に普及していたんだと思い、驚いたのを覚えている」
「天使教って、茸の話しか聞かないんですが、どういう宗教なんですか?」
「茸で悪い気を取り除くというのが教義の中心のようだな。回収した悪い気は、教祖が浄化するそうだ」
「教祖って、誰なんですか?」
「わしも知らんよ」
「あと、何で天使なんですか?」
「信者じゃないから知らんよ。茸が天の御使いから授けられたことに由来するとか言っていたな」
学校で聞いた話と同じだ。
ラパンは、天使教についてはあまり情報がないんだよ、と残念そうに言った。
◆◆◆
事務所に戻ってパンを食べていると扉がノックされた。霊魂の目で、扉の向こうに誰がいるのか調べる。
フィーとゾーイだ。俺は「どうぞ」と言い、入ってくるように促した。
「どうした、アステル。私が恋しくなったか?」
フィーはにやにや笑いながら言う。横のゾーイは神妙な顔で立っている。
「フィー、天使教って知っているか?」
「何か流行っているようだな」
「茸の話は?」
「茸を崇めるそうだな。欲求不満かよ」
フィーは、けらけらと笑った。ゾーイは、やれやれ、うちのお嬢様はという顔をしている。
「あの茸だが、少し調べてみた。近くの者の魔力を吸って、従属させる魔法をかける。さらに、茸の傘の裏にあるひだに、魔力を溜める。
信者は、魔力を溜めた茸を集会に持っていき、魔力が溜まっていない茸を受け取る」
「単眼鬼か?」
フィーとゾーイの表情が鋭くなった。やはり、フィーも同じ結論に到達するようだ。
「天使教は秘密結社みたいな組織になっていて、上層部には直接会えない。だから、回収した茸がどこに行くのか分からない」
「なるほどな。私たちを呼び出した理由が分かった。ゾーイの魔法が使いたいんだな」
「ああ。ゾーイさんに追跡に参加してもらうか、『飢えた猟犬』を俺に見せてもらうか、どちらかをお願いしたい。
魔法を見さえすれば、俺の魔法『張りぼての物真似』で一時的に真似ることができる」
「おまえの魔法って、どうやったら真似られるんだ?」
「発動するところを見るだけで真似られる」
「覚えた魔法は、何度でも真似られるのか?」
「徐々に真似るのが難しくなって、二、三日で使えなくなる」
フィーは少し考える。
「私たちも追跡に参加する。どうせ一日もあれば決着がつくだろう。アステルの魔法は、同時に二つは真似られないんだろう?」
「ああ、ご察しのとおり」
「それなら、『飢えた猟犬』を真似ずに、空けておいた方がいい。ゾーイ、それでいいな」
「はい、お嬢様」
フィーとゾーイも、協力してくれることになった。




