23.6 挿話:ガラト・シャントン
娘のニーナを魔法学校に入れたのは間違いだったと悔やんだ。
入学して一ヶ月、初めて帰省したときに表情が暗かった。二ヶ月経ち帰省したときには、長かった髪の毛がばっさりと切られていた。いじめに遭っているのだと想像がついた。
シャントン家は、貴族との取引が多い。そのため、貴族のことは分かっているつもりになっていた。ガラトは魔法を持っていない。そのため魔法学校に通ったこともない。
ふだん貴族たちが取引のときに見せる顔と、貴族の子女が学校で見せる顔に、隔たりがあるとは思っていた。しかし、ここまで大きく違うとは想像していなかった。
学校に苦情を入れた。しかし、魔法学校の教員の多くは、爵位を持たない。仮に爵位を持っていても、生徒の親の方が上のことも多い。改善されることは期待できなかった。
入学してから三ヶ月経った時点で駄目なら、魔法学校を辞めさせようと、ガラトは決めた。
三ヶ月目の途中でニーナが帰ってきたときには、緊張しながら会った。苦しんでいるようなら、少し早いが学校を辞めさせようと思った。
しかし、ニーナの表情は穏やかになっていた。そして、友達が二人できたと嬉しそうに話した。
友達は、フルール伯爵家の令嬢グラノーラと、ランドール男爵家の子息アステルの二人だという。また、アステルがガゼー地区に構えている事務所で働いているココルという少女とも友達になったという。
ニーナは、友達と旅行に行くので馬車を借りたいと言ってきた。ガラトは、一も二もなく了承した。
それからガラトは、グラノーラとアステルについて密かに調べた。
二人は同郷で幼なじみとして育ったという。そして、ニーナが入っているグループの中心人物は、どうやらアステルだということも分かった。
アステルがガゼー地区に開いている事務所は、決闘代行の事務所だった。事務所で働いているココルという少女は、ガゼー地区で有名な決闘代行の少女剣士だった。また、グラノーラのフルール家は、戦上手の武闘派として有名な家だった。
娘が一緒にいて危険はないのか。ニーナは喜んでいるようだが、本当に大丈夫なのだろうか。狂戦士の集団に、文学少女を放り込むようなものではないのか。
探偵を雇い、アステル・ランドールについて調査をおこなった。定期的に上がってくる報告は、ガラトを不安にさせた。
決闘代行の仕事、ガゼー地区の顔役ラパンとの付き合い。喫茶店で大立ち回りをしたこともある。魔法強奪の疑いをかけられたこともある。暗殺組織ジンとも交流があるという。
どう考えてもヤバい筋の人間だというのが、ガラトの感想だった。
ニーナと引き離した方がよいのだろうか。しかし、ニーナは帰ってくるたびに、嬉しそうにアステルとグラノーラの話をする。二人がどれだけ仲睦まじいか、その様子を見るのが楽しいかを語る。
アステルたちと付き合うなと言えば、ニーナはひどく落ち込むだろう。
どうすればよいのか。どうにかして、アステルと二人きりで会い、人物を見定める機会を作らなければならないと思った。
ニーナの嬉しそうな顔を見るたびに決意が鈍り、ずるずると第一学年の終わりまで来てしまった。夏休みに、ニーナは仲間たちと一ヶ月の旅行に行くという。
武闘派集団との一ヶ月旅行。どんな危険な旅に行くのか分からない。馬車一台分の護衛をつけることにした。そして、帰ってきたタイミングで、アステルと二人きりで会い、話をしようと思った。
二人だけで、武装を解いた状態で会うには、どうすればよいか。シャントン商会の離れには浴場がある。そこを使おうと決めた。
護衛たちには浴場の周辺で待機してもらい、何かあったときには、いつでも踏み込めるようにしてもらった。
そしてニーナの友人たちを浴場に促し、アステルだけが男湯に入ったところで接触した。
「横に失礼するよ」
「どうぞ」
「魔法学校ではお世話になっております。ニーナの父です」
「えっ!」
ガラトは、アステルを直接見て人物を見定めた。そして会話をして腹の底を探った。
どうやら、想像したようなヤバい人物ではないようだ。謙虚で礼儀正しい好青年だった。先ほど話をしたグラノーラ・フルールも、裏表のない明るい人間だった。
大丈夫そうだな。
ガラトは安心した。ニーナが友達と呼んでいる相手が、悪い人間のはずがない。
ガラトは心の中で娘に詫びた。そして、娘の属するグループを、陰ながら支援しようと決めた。




