23.5 学校への浸食
天使教は、あまりにも急速に広がっている。俺は学校内での天使教の普及具合を知りたかった。
自分で地道に調べてもよいが、おそらく情報が集まっている場所がある。その場所を訪ねてみることにした。
宿舎を出て学校の敷地を歩く。しばらく行くと記念館が見えてきた。石造りの建物内に入り、ダンロス公爵家の紋章が刻まれている扉の前までやって来た。
ノックをして返事を待たずに入る。中にいる人たちが厳しい目でこちらをにらんできた。
俺はざっと部屋内を見渡す。左右に並んでいる執務机には、茸の鉢が置いてあるものもあった。ここにも広がっているのか。天使教の話をすれば、反発を招きかねない。
俺は、部屋の一番奥にあるメザリアの執務机を見た。彼女の机に茸はない。それならば話しても大丈夫だろう。
「天使教とやらが広まっているのですが問題はないのですか? 茸を持っている人は、いずれも顔色が悪くて衰弱しています」
殺意を交えた視線がいくつかの場所から向けられる。振り向かずとも、どこからか分かる。机の上に茸がある者たちからだ。
「確かに顔色が悪いように見える。その点は懸念している」
メザリアが答え、ざわめきが起きる。問題視していることが信じられないといった感じの反応だ。
「何人ぐらいいるのですか?」
「正確な数は把握していない。各クラスに一人から二人といった割合だと考えている」
こちらの体感とだいたい同じだ。
「経路は分かっていますか?」
「遠い領地に帰省した者は、二学期が始まって初めて天使教の話を聞いたようだ。夏休みを王都で過ごした者が影響を受けている」
「天使教殺人事件の話はご存じですか?」
「聞いている。茸への依存は注視する必要があると思っている」
「メザリア様!」
部屋に非難の声が湧き起こる。話を聞くどころではないと判断して、俺は部屋から出た。
俺は記念館の廊下を歩きながら考える。派閥の影響力よりも、天使教の影響力の方が大きいのか。それぞれの生徒の、王都での屋敷にも入り込んでいるのだろう。
俺は天使教が気になる。どうして、ここまで気になるのか。懸命に頭を働かせて理由を考える。
「なあ、マル。魔法は精神にも影響するよな?」
「当然、そうした魔法もある。おまえも時計職人の屋敷で、眠る魔法にかかっただろう。あれも精神に影響する魔法だ」
「執着を引き起こして、人々の行動を変える魔法もあるのか?」
「ある。昔からある魔法といえば、惚れ薬的なものだな。交尾をする動物の精神状態を、霊体の部品として取り出して、人間に使うという精霊魔法があった。
信じる、ありがたがる、身を捧げる。そうした精神状態も魔法で作り出すことができるだろう」
「そうした魔法が茸に仕掛けられている可能性はあるか?」
「調べてみるか?」
俺はうなずき、宿舎へと引き返した。
◆◆◆
仲間たちは、グラノーラの部屋でお茶会をしていた。俺はニーナに声をかけて、ニーナの部屋に置いた茸を調べると話をした。みんな付いてきたがったが、グラノーラの部屋で待機してもらうことにした。
俺はニーナの部屋に入り、机の上の茸を観察する。霊体の糸を複数伸ばして精霊探知をおこない、魔法が仕掛けられていないか調査する。
外部には見当たらなかったので茸の内部に埋め込まれていないか探索する。
柄の部分の霊体に、小さな穴が複数空いていた。中は空洞になっており、精霊がいることを発見した。
「やはり、魔法が仕掛けられていたか」
そこまで言って、俺は首をひねった。
「これ、もしかして全ての茸に魔法が埋め込まれているのか?」
驚きとともに疑問を口にした。魔法を大量生産しているのか?
「いや、これは全自動魔法ではない。天然精霊だ。この茸と共生しているようだ」
「見たことがない茸だと言っていたよな?」
「ああ。魔力を吸い取り、その魔力で、依存の魔法をかける。依存させた者に自身を育てさせる。そうした種類の茸があってもおかしくはない。
見る限り、必要以上に魔力を吸い取って集めているようだがな」
俺は違和感の正体にたどり着く。こうしたことをする相手を、俺は知っている。魔法についての知識があり、魔力を集める相手だ。
「単眼鬼が背後にいるんじゃないのか?」
「私も同じことを考えている」
マルと意見が一致した。
「ここからどうやって魔力を転送するんだ? 針のときみたいに糸で運んでいるのか?」
しかし、そうしたものはないように思える。
「天使教は宗教なんだろう。礼拝などの集会があるのではないか?」
「そこに茸を持ってこさせて魔力を回収する」
「あるいは、魔力が空の茸と交換するのかもしれないな」
少しずつ全貌が見えてきた。これは、単眼鬼の新たな魔力収集システムなのではないか。
「少し調べてみる必要があるな」
俺は謎の茸の背後に、敵の姿を垣間見た。




