23.4 天使教の茸
グラノーラの部屋の前まで戻ると、ニーナとウルミが待っていた。
「ごめん、ごめん、お菓子をもらってきたの」
グラノーラは明るく言う。
全員で部屋に入り、机を囲む。いつものようにお茶会をしながら雑談をした。
「そういえば天使教の話を耳にしました。アステルさんが気にしていると父が言っていたので、気づきました」
ニーナも天使教の話を聞いたようだ。夏休みのあいだに、けっこう生徒たちのあいだに広まったのかもしれないなと思った。
「どんな話だったんだ?」
「茸を育てているという話です」
「どこも同じだな」
「それで、見せてもらって、分けてもらったんです。今、私の部屋にあります」
ずいぶん踏み込んだな。あるいは、俺が気にしているという話を聞いて、情報を集めようと思ったのかもしれない。何か悪いことをしたなという気分になった。
「へー、どんな茸なんだ?」
「それが……、マル先生に見ていただいた方がいいと思いまして」
俺たちは真面目な顔になる。ニーナが俺を飛び越してマルに意見を求めるとなると魔法がらみの案件だ。
「行こう。早めに見た方がいいだろう。マル!」
「ああ、きな臭い感じになってきたな」
マルは俺だけに見えるように姿を現す。俺たちはグラノーラの部屋を出て、ニーナの部屋に移動した。
扉を開けて中に入る。机の上に植木鉢があり、その中に土が詰められており、茸があった。
色は茶色で目立たないものだ。茸の傘は平たく、大きさは手のひらの指を除いた部分ほどだった。
「これが、天使教の茸か」
俺は遠巻きにながめる。大きさは少しあるように思うが、これといって特徴のないものに思える。これを見て、ニーナがなぜ問題視したのか分からなかった。
「近づくと分かります。すぐに離れてください」
ニーナが厳しい顔で言う。俺が行くのがよさそうだな。ゆっくりと近づいていく。ある程度の距離に来たところで、何か違和感を覚えた。
「う、うん?」
一、二歩進んだあとに引き返す。この感覚は何だ。もう一度数歩進んで引き返す。感覚の正体が分かった。
「魔力を吸っている?」
「はい、そうだと思います」
俺は思い出す。天使教の茸の話で、悪い気を吸うというものがあった。
気力や霊力は、魔力と同じものだとマルに習った。ということは、この茸は人間から自然放出されている魔力を吸っているということか。
「こいつは、魔力を吸って育っているのか?」
「分かりません」
「マル、何か分かるか?」
「魔力を、魔力のまま蓄えているようだな」
「どういうことだ?」
「魔力を圧縮すると、ある時点で霊体化するだろう。その手前まで圧縮して、茸のひだの中に蓄えている。非常に珍しい生態の茸だな。私も初めて見た。
少なくとも、この周辺の地域には生息していないはずだ。もし存在していたなら、五百年前の大魔法使いの塔に、誰かが持ち込んでいたと思うからな」
「それでは特別な茸なんだな?」
「ああ。悪い気ではなく気力そのものを吸う。宗教で重要な存在とされるのも、あながち間違いではないだろう」
「天使教の話をするやつらが、みんな顔色が悪かったのは、もしかして」
「こいつに生気というか魔力を吸われたせいだろう」
魔力を使うとお腹が減る。それならば魔力を吸われれば体力が減退するのも分かる。
「天使教って何なんだ?」
「さあ。何がしたいのかは、この茸からは分からんな」
マルは、残念そうに言った。




