23.3 学校と天使教
――九月上旬。
魔法学校の第二学年が始まった。新入生たちが入ってきて、宿舎は賑わいを見せている。
俺たちの部屋は二階に移った。二年生は二階だからだ。部屋の位置は同じで、そのまま上にスライドした。
夏休みのあいだに作った精霊瓶は、さすがにぶら下げて校内を歩くわけにもいかず、自分の部屋の木箱にしまっている。精霊瓶は、外出時にだけ着けることにした。
相変わらず教室では、誰も俺に声をかけてこない。
まあ、四人だけの弱小派閥に属しているし、最大派閥には目をつけられている。ふつうの生徒にとって、俺たちと交流する理由はないだろう。
学校という場所は、勉強ができる利点はあるが、こういう面ではクソだなと思う。
いや、大きな派閥に入り、コネを作るのには最適なのだろう。問題は俺の方か。まいったな、俺が馬鹿みたいじゃないか。
「ねえ、天使教って知っている?」
教室のどこかで声がした。最近気にしていた単語だから聞き耳を立てる。
「先輩に誘われたの。茸を育てないかって」
何だそれはと思いながら体の向きを変えた。
話している女生徒は顔色が悪い。体調が悪いのかと思った。
ふだんは、どうだったかな。級友の顔などわざわざ見ていないから分からない。それに夏休み明けだ。休み疲れということもあるだろう。
先生が入ってきた。散らばっていた生徒たちは自分の席に戻る。俺は教科書とノートを出す。授業が始まり、先生は話しだした。
授業が全て終わり、放課後になった。手早く荷物をまとめて教室を出る。
話す相手がいない場所に長々といても仕方がない。それよりもグラノーラの部屋に行き、魔法修行の続きをしよう。
廊下を歩いていると、少し離れた場所の声が聞こえた。
「天使教に入らないか?」
歩く速度を緩めて立ち止まる。壁際に行き、鞄から本を出して読む振りをする。そして話している者に目を向けた。上級生のようだ。顔色が悪い。
天使教の話をしている人を見るのは二人目だが、いずれも顔色が悪いなと思った。
まあ、よく分からない宗教に興味を持つ人は、何らかの問題を抱えている人だろうしな。顔色の悪い先輩は、熱心に勧誘している。
俺が興味を持っていると気づかれる前に退散するか。俺は本を鞄にしまい、その場から立ち去った。
自分の部屋に荷物を置いたあとグラノーラの部屋に移動した。
「お嬢、新年度の学校の初日はどうだった?」
「いつもどおり、みんなシャイよね。私に話しかけてこないんだから」
「その脳天気さの百分の一でも俺は欲しいよ」
本気でそう思った。
「ニーナとウルミはまだみたいだな」
「そのうち来るでしょう。その前に、食堂に行ってお菓子をもらってきましょう」
グラノーラに誘われて、俺は一緒に食堂に行った。放課後なので食堂には多くの人がいた。俺たちはお菓子をもらって引き返そうとする。
天使教という言葉が聞こえた。俺は立ち止まり、耳を傾ける。
「今日、何度か聞いたわよね、天使教」
「お嬢も聞いたのか?」
「何だか知らないけど、流行っているみたいね。茸を育てる宗教だっけ」
「そうみたいだな」
「話していた人たち、みんな顔色が悪かったのよね」
俺は何かが引っかかった。
「何人ぐらいだ?」
「三人ぐらい」
俺が目撃したのは二人だ。
俺は振り向いて、さっき天使教の話をしていた生徒を探す。顔色が悪い生徒がいたので、たぶんこいつだろう。
「お嬢の三人と、俺が聞いた二人と、さっき話していた一人で合計六人。全員の顔色が悪い」
「毎日、徹夜でお祈りをしているとか?」
何だろう、この違和感は。何かに気づきかけているのだがと思った。




