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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第23章 天使教

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23.1 シャントン商会

 馬車が王都に着いた。久しぶりに王都の街壁の門を抜けると、音の洪水に耳がやられそうになった。


「初めて王都に来たときのことを思い出すなあ」


 俺は、馬車の荷台で同じように揺られているグラノーラに声をかけた。


「あのとき、アステルはきょろきょろと見回していたよね。周囲がみんな珍しかったんでしょう」


 さらさらの金髪に美しい青い目のグラノーラは、にこにこしながら言う。


「なっ、そんなことねえだろう」


「くふふふっ、かわいいんだから」


 恥ずかしがっている俺を見て、グラノーラは楽しそうに笑みを漏らす。

 赤髪のココルが、面白そうに俺たちを見ている。俺はココルに、叱るような顔を向けた。


「アステル様、知っています。それは夫婦漫才と呼ばれるやつですよね」


「違うぞココル。お嬢は、俺をからかって面白がっているだけだ」


 グラノーラは笑い転げる。

 ココルは、じっと俺たちを観察している。橙髪に橙目のウルミは、何が起きているのだろうかという顔をして、目を忙しげに動かしていた。


「アステルさん。事務所に寄って、必要な荷物を下ろしたあと、シャントン家の商会で解散でいいですか?」


「ああ、ニーナの親父さんにも、お礼を言わないといけないしな」


 青髪に眼鏡のニーナは、御者席で馬を操りながら、こちらに話しかけてくる。

 よくよく考えると、ニーナも富商のお嬢様なんだから、御者を別に雇えばいいのではないかと思って尋ねた。


「シャントン家の方針で、自分でできることは、なるべく自分でやるようにと言われているんです。特に若いうちは。

 そうすれば見聞が広がり、さまざまなところに改善点や商売の種が見えるようになるという教えなんです」


「へー、なるほどね」


 そりゃあ、そういう方針で育ったなら、魔法学校の貴族の子女とは合わないよなと思った。

 あの学校に通う貴族の多くは、奉仕されるのを当然と思っているような連中だ。


 しかし、久しぶりの王都は、故郷や山岳地帯とにおいが違う。

 澱んだ臭気がある。浄化されないままの人の生活のにおいがこもっている。下水があるとはいえ、きれいに全てが流れていくわけではないしなと思った。


 馬車はガゼー地区に入った。貧民街を進んでいき、事務所の前にたどり着く。顔なじみの人たちと会い、挨拶をする。魔法関係の荷物を下ろして事務所の中に運び込んでいった。


 空のままのガラス瓶や、採取して使わなかった奇房(きぼう)の植物や土などが入ったガラス瓶もある。魔力湧出口を多数収めたガラス瓶や、予備の精霊瓶もあった。


「これを他の人が見ると、何をしに旅行に行ったんだと思うよな」


「立派な成果じゃない、アステル」


 グラノーラは楽しそうに荷物を運ぶ。

 全員で作業をして手早く片付けたあと、シャントン家の商会へと出発した。


 商会に着いたところで護衛とは別れた。ここでの荷物の片付けは、商会の使用人たちがしてくれるそうだ。俺たちはニーナの父親に挨拶するために商会の建物に入った。


 俺たちの代表はグラノーラということで挨拶をした。伯爵令嬢で最も地位が高く、ニーナの父親にとっては縁を繋いでおきたい相手だろう。


 一通り話が終わったあと、夕食を一緒に食べていかないかと誘われた。商会の会議室で簡単なディナーを供したいと言われた。


「ありがとうございます。せっかくなので、みんなで食べていきましょう!」


 食に貪欲なグラノーラは、二つ返事で受けた。


「なあ、ニーナ。これは受けた方がよかったのか? それとも断った方がよかったのか?」


「グラノーラさんをもてなすのが目的だと思いますから、グラノーラさんが食べたいなら受けるで正解だと思います」


「そうだな」


 俺はニーナと小声で話をする。


「あの、私は帰った方がよいでしょうか」


 ココルが不安そうに尋ねる。ココルは貧民街出身で、俺と出会うまでは路上で生活していた。気が引けるのもうなずける。


「一緒に食事をしていくでいいと思います」


 ニーナが優しく言う。


「でも、作法とか分からないです」


「心配するな。ニーナの真似をしていれば間違いない」


 俺はココルを励ますように言った。


「はいはーい、私も作法が分からないでーす!」


 ウルミが楽しそうに手を振る。


「ウルミも、ニーナを真似しろ」


「何か、私だけあつかいが適当じゃないですか?」


「いや、放っておいても構っても、結果は同じだろうと思っているだけだ」


「それって、褒められているのか貶されているのかどっちなんですか?」


「褒めているんだよ」


 ウルミは納得したようだった。


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