22.5 遠征からの帰還
翌日は全員で休んだ。
翌々日、受付事務所に行き、バナシュにもう一度行く話をした。バナシュとともに、俺たちは地下奥深くに潜った。
一度経験済みの作業だ。今度は質を上げることを目指す。精霊瓶の環境をよりよく作り、精霊が環境から使える魔力の量を上げる。
俺たちは、それぞれ二つの精霊瓶を作って持ち帰った。
帰還した翌日は、魔力湧出口を作って、魔法再現器を組み立てていく。二つ目の精霊瓶ができた。さらにノウハウが溜まった状態で、三回目の製作に挑む。そうしているうちに一週間が瞬く間に過ぎた。
「できた!」
俺たちは、宿屋の俺の部屋に集まっている。それぞれが三つ目の精霊瓶を完成させた。
明らかに一つ目、二つ目よりもできがよい。革のケースと紐を取り付けて持ち運びしやすいようにした。
「ようやく満足のいくものができたようだな。これで全員、新しい魔法を一つ獲得したのと同じ状態になった。
今のザラエル王国で魔法を手に入れるのは難易度が高い。高額の金を積むか、魔法が余っている貴族と婚姻関係を結ぶしかない。そうした方法と比較すれば、この精霊瓶の価値がよく分かると思う」
俺はうなずく。俺の祖父は、大きな戦役で戦功を上げることで、ようやく魔法を手に入れた。
ニーナも、父親が高いお金を払うことで魔法を入手した。ウルミは、商品の支払いの代わりに祖父がもらったと言っていた。
魔法は、ふつうの人が正規のルートで手に入れられるものではない。
「まだ、凝った人工精霊は作れないが、いちおうこれも全自動魔法なんだな」
俺は不思議な気持ちになりながら瓶を見た。いろいろと価値観や常識が変わるなと思った。
俺は、技術を発展させていく楽しさを知ってしまった。そして、さらに新しいことを学びたくなった。もう、無知な頃の自分には戻れない。マルが、ひたすら魔法の発展を望んだのが分かる気がした。
「さあ、これで王都に戻れるぞ。戻ったあとは、時間はかかるだろうが人工精霊の研究と製作を進めていこう」
マルはにこやかに告げる。
俺たちはマルに礼を言った。そして、タタカ洞窟を引き上げる準備を始めた。
◆◆◆
出発は完成の翌々日になった。出発前日は、宿屋の主人やバナシュたちに礼を言って回った。
出発の日は、バナシュや受付事務所の人たち、顔見知りになった屋台の店主や子供たち、冒険者たちが見送りに来てくれた。
「やたら愛想がいいなあ」
「集落の人たちは気さくですよね。冒険者の方々は、いずれ仕事に繋がるかもしれませんし」
ニーナは商人の娘らしいことを言う。
俺たちは、タタカ洞窟の集落を出発した。
護衛の馬車と、俺たちの馬車の二頭立てで道を進んでいく。
途中で昼飯をとり、夕方近くに野営の準備をした。街道近くの草原にテントを張り、焚き火を始めた。
夕食をとったあと、俺は護衛の人たちと情報交換をした。魔法を作っていた俺たちとは違い、彼らはタタカ洞窟と行き来していた商人たちから情報を得ていた。
特にこれといった有用そうな話は聞けなかった。どこそこの地方の作物は、今年豊作になるそうだとか、どこそこの港の水揚げが、今年は悪いそうだとか。
商人ならば、そこから商機を見いだせるのだろう。しかし、あいにく俺には、そうした知識も経験もなかった。
「そういえば……」
冒険者もしているという中年男性の護衛が思い出したように話しだした。
「天使教って知っていますか?」
「いえ、初めて聞きますね」
「私もタタカ洞窟に来た商人に聞いて初めて知ったんですよ。最近の王都の話題として」
俺たちが夏休みで離れているあいだの情報か。
天使教殺人事件と呼ばれる事件があった。王都で、妻が夫を殺したというものだ。
夫は、妻が突然変わったと周囲の人に漏らしていた。妻は子供の世話をせず、茸栽培に夢中になった。その茸を夫が捨てたことで、妻は夫を刺し殺したという。
「えっ、なぜそれが天使教殺人事件と呼ばれるんですか? ふつうに考えれば茸殺人事件ですよね」
「俺もそう思うから、商人に言ってやったんだよ。同じようなことを。
そしたらさ、商人も腕を組んで言ったんだよ。俺も、話を聞いたやつに同じ質問をしたよと」
何だそれは?
結局、なぜ天使教殺人事件と呼ばれるのか分からなかった。俺は、護衛が抱えたもやもやを、そのまま受け取った形になった。
それにしても、なぜ天使教殺人事件なんだ?
他の護衛に、何か知っていることがないかと聞いてみた。しかし、他にこの話を知っている者は、誰もいなかった。




