22.3 精霊語の命令
屋台で食事を終えたあと、宿屋の俺の部屋にみんなで戻った。魔法再現器作りは、霊餅生成器までしか終えていない。まだまだ必要な部品はある。
「次は何を作るんだ?」
マルに尋ねる。
「振動子と記録媒体だ。振動子は魔力の増減で、精霊向けの声を作る。記録媒体は魔力の増減の波形を、平らな紐に書き込んだものだ。
振動子に魔力を流し込みながら、声と同じになるように調整して、その魔力を記録媒体に記録する。精霊向けの声を再生するときは、記録したとおりの増減で魔力を振動子に送り込んで再現する」
マルは、波形や振動について一通りの講義をする。俺たちは必死にマルの説明を理解しようとする。俺たちがまったく知らない話だったので、説明が終わる頃には全員燃え尽きていた。
どうにか回復した俺は、手を挙げて質問する。
「なあ、マル。記録の方は、かなり難しくないか?」
何回トライアンドエラーをすればよいのか分からない。うまく合わないと何日もかかる可能性がある。
「まず、一定の声を出しながら振動子に送り込む魔力量を変える。声と振動子の二つの音のうねりがなくなれば、一致していると見なす。あとはこの繰り返しで、各声の魔力量を記録する。
音程しか合わないんだが、これを繋げると、声っぽく聞こえる。精霊に伝えるにはこれで十分だ。人間の言語体系とは違うからな。
大魔法使いの塔には、精密な記録装置もあった。なくても手作業でおこなえる。短いフレーズならこれで何とかなるぞ」
記録装置があればいいんだろうが、ないものねだりをしても仕方がない。俺は手を挙げてマルに質問する。
「記録する前に、精霊に伝えるフレーズを決めておかないといけないよな?」
「そうだな。本格的に作る場合は、いくつかのフレーズを用意するんだが、今回は一つだけでいい。
というわけで、自分の精霊瓶に語りかけて、魔法として効果を発揮できそうなフレーズを一時間かけて模索してくれ」
本当に、夏休み子供工作教室だ。
俺たちは、それから一時間かけて、自分たちの精霊瓶に命令する、短い魔法のフレーズを試していった。
一時間が経った。
「それではみんな、魔法のフレーズと効果を発表してくれ」
マルに言われて発表会が始まる。まずは俺から発表させられた。
「俺の精霊瓶の精霊は、小さな雷を発生させることができる。だからシンプルに『瞬雷』だ。単語は、精霊とのコミュニケーションで探った。指を差したところに小さな雷を発生させる」
机の上に蝋燭を置いて指を差し、精霊に霊餅を与える。そして『瞬雷』と精霊語で唱えた。パチッと小さな雷が閃き、蝋燭の先に火がついた。
次はココルの発表になった。ココルの精霊は風の刃を生み出すものだ。手を掲げて、霊餅を作り命令を与える。
『風刃』と精霊語で唱えた。
蝋燭の芯が切断されて火が消えた。直接的な魔法だ。戦闘の補助に使えるだろう。
次はグラノーラの発表になった。体重が重くなる精霊ということだった。
『重量増』と精霊語で唱える。
グラノーラは、俺に向けて使った。全身が重くなり、動きが鈍くなる。グラノーラは、すぐに解除してくれた。
「なるほど、敵を遅くするのに使うんだな」
「ふふ、それだけじゃないわよ。攻撃が当たる瞬間に魔法を使えば……」
グラノーラは、俺の腹に向けて拳を放ってくる。俺は両腕で受ける。防御を突き破る勢いで激しい打撃が俺を襲い、吹き飛ばされた。
「何だ、これは?」
「攻撃が当たるときだけ、私の体重を増加させたの。見た目よりも重い打撃が通ったでしょう」
洒落にならないなと思った。
次はニーナの発表になった。ニーナの精霊は音を鳴らすものだ。
ニーナは『音包』と精霊語で唱えながら、俺を指差す。
体中から、ガタガタ、ドタバタという音が鳴り始めて、俺を包んだ。周囲の物音も分からなくなり、集中力も著しく削がれる。
「ニーナ、そろそろやめてくれ」
「すみません、アステルさん」
精霊瓶に命令して、ニーナはやめてくれた。地味だが厄介な魔法だ。
最後はウルミの番だ。ウルミは精霊瓶を高々と掲げて俺を指差した。
「『滑る』!」
声とともに、精霊語で唱える。
足元が急に不安定になり、つるりと滑る。四つん這いになり、立ち上がることができなくなった。
「何で、みんな俺を狙うんだ!」
「すみません」
ウルミが謝り、魔法を解いた。
それぞれの発表が終わったあと、全員が疲れた顔をした。
「みんな、へろへろになっているな。理由は分かるか?」
マルが尋ねてくる。
「精霊瓶が小さいからだろう。ガラス瓶の中の環境だけでは魔力が足りない。だから、俺たちの魔力も吸われている」
「そうだ。武器を増やすとは言ったが、使える回数は限られる。使い所を間違えないようにしてくれ」
俺たちは少し休んでお菓子を食べて、それから作業を再開した。




