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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第21章 大深度のテラリウム

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21.6 奇房

 四日目の朝になった。宿屋のロビーで集合する。ニーナとウルミは。もうだいぶ慣れてきたようだ。初日のあとの朝とは大違いだ。


 バナシュと合流して洞窟に入る。円蓋、千枚皿、大地の槍と、そつなく移動する。

 今日は補助の案内人を雇い、大地の槍で待機してもらうことにした。何かあったときに、速やかに救助隊を呼べるようにするためだ。


 先へと進む穴に入る。立ちはだかる動物との戦闘があった。クラヤミトカゲや、クワガタムカデを撃退すると、巨人の階段のような段差が現れた。


「一段ずつが、けっこう高いですね」


「最終的に、かなり深いところまで下ります」


 時間をかけて段差を下りる。中腰にならないと通れない場所を抜けると、垂直の穴が現れた。

 壁面に楔が何本か打ち込まれている。バナシュはロープを巻き付けて固定する。


「アステルさん。俺が最初に下りますので、女性陣を一人ずつ下ろしてください。最後に、アステルさんが下りてきてください」


「分かりました」


 バナシュは、するすると下りていく。グラノーラとココルも、同じぐらいの速度で下りていった。


「ニーナ、ゆっくりと下りればいいからな」


「はい」


 緊張している。深呼吸をさせてリラックスさせる。ロープを使って下ろさせた。


「ウルミ。暴れなければ下りられるからな」


「暴れたりしませんよ!」


 手をわちゃわちゃと動かす。


「ロープを解こうとするなよ」


 念を押して送り出す。最後に俺も下りて先に進んだ。


 同じような降下を合計三回おこなった。その先で、再び戦闘があった。アナグライソギンチャクを倒して、しばらく歩くと目的地に到達した。


「ここが奇房です。この通路が、ブドウの房の、中心の枝にあたる部分です。

 それぞれ穴が見えますよね。その先に二、三人ぐらいが入れる球状の部屋があります。それぞれで奇妙な現象が起きるのですが、先に説明しますか?」


「危ないんですか?」


「即死するようなものはありません。多少の怪我はするかもしれませんが」


 怪我程度なら大丈夫だろう。俺たちにはグラノーラがいる。いざとなれば『癒やしの手』の魔法で、治してもらえばいい。


「よし、手分けをして部屋を探ろう。ガラス瓶に環境ごと精霊を閉じ込めていくぞ」


「はい!」


 俺たちは背嚢からガラス瓶を出して、それぞれ部屋を選ぶ。

 俺も明かりを持って、一つの部屋に入った。


「本当に球状なんだな」


 まるでボールのようにきれいな形になっている。壁は苔やシダなどの植物で覆われており、床には水たまりができていた。


「奇妙な現象ってどんなことが起きるんだ? いたっ!」


 俺は振り向いて背後を見る。雷のようなものがパチパチと音を立てていた。空中を微小な球電が移動して、やがて消えた。


 俺は霊体の糸を伸ばして、精霊を見ようとする。爪ぐらいのサイズの、エイのような形の精霊が無数に浮かんでいる。

 この場所の植物たちと結ばれているようで、球電は侵入者を排除するための威嚇のようだった。


「こいつを持って帰るわけだな」


 ガラス瓶の蓋を開けてスコップを取り出す。どのようにすればガラス瓶の中に環境を再現できるだろうかと考える。


 足元の水をすくって中に入れる。砂利も拾って中に敷き詰める。続いて壁面の植物をそっと剥がして瓶に移植した。

 俺は、奇房の縮小コピーを作ろうとする。最後にガラス瓶を空中で動かして精霊たちを捕らえて蓋を閉めた。


「こんなものでいいのかな」


 言ったそばから、精霊が瓶を抜けて外に出てしまった。


 瓶は霊体が希薄だ。瓶自体に霊体を充填して壁を作らないといけない。

 時計職人の地下室のような状態にする必要があるのだろう。あるいはマルが作った、単眼鬼の足の霊魂を収めていた箱のようなものを作らないとならない。


 瓶自体には微かに霊体がある。この霊体を増強するのがよいだろう。

 俺は魔力を霊体化して瓶の霊体に足していく。もともと瓶の霊体は安定しているから、そこに付け加えていけば簡単には消えないだろう。


 ゆっくりと時間をかけて増強したあと、再び瓶の中に奇房の精霊を捕獲して蓋をする。今度は逃げ出さない。難点は、外から霊体が見えなくなったので、きちんといるのか確認できないことだ。

 マルを呼び出して確認する。


「これで、精霊瓶はできているか?」


「そうだな。まあ、いいだろう」


 とりあえず及第点は取れたようだ。


 俺は奇房の房室から出る。少しずつ仲間たちが小さな部屋から出てきた。

 仲間たちはみんな、俺と同じようにガラス瓶に霊体を追加する方法にたどり着いていた。


「それぞれ、どんな精霊を捕まえたんだ? 俺は、球電を作る精霊だった。お嬢は?」


 俺はグラノーラを指差す。


「体重が重くなる精霊よ」


「何だ、それ?」


「ずっしりと重くなって、身動きが取れなくする感じ」


「重くなるって、大丈夫だったのか?」


「根性で対応したわ」


 脳筋かよと思った。


「ココルは?」


「風の刃みたいな感じです。手のひらが血だらけになりました」


 ココルは手を開いて見せる。血まみれになっていた。

 俺たちは驚き、慌ててグラノーラが魔法で治療した。


「ニーナは?」


「私のは、そんなにすごくないです。音を鳴らす精霊です。不快な音を出します」


 何に使えるのか分からないなと思った。


「ウルミは?」


「わったしのは、すごいですよ。つるんと滑る精霊です!」


 よく見るとびしょ濡れになっている。その精霊のせいだろう。


「使えるのか?」


 思わず口に出して言ってしまった。


「めちゃくちゃ使えますよ! 機械の部品の滑りをよくできて便利じゃないですか!」


「あ、ああ。そうだな」


 俺たちは、それぞれが捕まえた精霊について意見を交換する。


「アステルさん。そろそろ戻った方がいいですよ。けっこう時間が経っています」


 バナシュに言われて、そんなに時間が経ったのかと思った。

 太陽が見えないので時間の感覚が狂ってしまう。俺たちは荷物をまとめて引き上げ始めた。


 帰りは、行きの倍の時間がかかった。垂直に下りた場所は、垂直に登らなくてはならない。ニーナとウルミは自力で登れなかったので、他のメンバーでロープを引っ張って引き上げる必要があった。

 洞窟から出てきたときには、すでに日が沈んでいた。


「バナシュさん。明日はいったん休みにします。宿屋に持ち帰った精霊瓶でいろいろと試さないといけないからです。そのまま数日かかる可能性もあります」


「分かりました。契約期間は一ヶ月なので、いつでも声をかけてください。俺は受付事務所にいますから」


 俺たちはバナシュにお礼を言って宿屋に戻った。


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