21.5 大地の槍
洞窟探索の二日目になった。
朝になり起きてきたニーナとウルミは表情が暗かった。疲労が体に蓄積しているらしい。バナシュの提案に従い、早めに引き返してよかった。
洞窟近くの受付事務所に行き、バナシュと合流する。昨日と寸分違わぬ位置と姿勢で出迎えてくれた。まるでこの位置にバナシュの銅像でもあるかのようだった。
「昨日は早めに戻ってよかったです」
「今日も同じ場所まで行って引き返しましょう。二回目なので、昨日よりも楽なはずです。
明日の朝、今日よりも疲労が軽ければ、もう少し先に行きましょう。最後の中継地点になる大地の槍を目指します。その先は深い場所になります。大地の槍まで行けるようになったら、奇房を目指しましょう」
「分かりました」
時間はかかるが、それがいいだろう。二日目も千枚皿まで行き、引き返した。
三日目の朝になった。宿屋のロビーで待っていると、みんなが出てきた。今日はニーナとウルミの表情が明るい。だいぶ慣れたようだ。
「今日は、さらに奥を目指そう。大地の槍という場所まで行く予定だ」
「はい、頑張ります」
「行けそうな気がしてきましたよ!」
ニーナとウルミは元気に言った。
受付事務所でバナシュと合流して洞窟に入る。中継地点で休憩を取りながら、千枚皿を超えて下りていく。洞窟はさらに細く急斜面になった。
平らなところは少なく、足元はデコボコしている。壁に手をつき、体を支えながら下りていく。千枚皿の先にいきなり行かなかった理由がよく分かった。
「あともう少しです。広いところに出ます」
バナシュの言葉に元気づけられながら洞窟を進む。前方に暗い穴が見えた。光が届かずに反射していない。さらに先に進むと、急に天井が高くなり、左右の壁がなくなった。
「ここが大地の槍です」
俺たちは思わず感嘆の声を上げる。光がほとんど届かない高い天井、巨木のような鍾乳石、足元には水たまりが無数にあり、鏡のように平らになっている。
椅子とトイレがいくつか置いてあった。トイレといっても、木箱の中に桶が置いてあるだけのものだ。バナシュの話では、集落の人が数日に一度回収に来るそうだ。この辺りまでは安全なので、子供が取りに来ることも多いという。
「この先は、危険な場所もあります。少しずつ慣れていきましょう。安全が第一です。怪我をしたり死んだりしなければ何度でも潜ることができます。焦りは禁物です」
バナシュは淡々と言う。これまでに、バナシュの言葉を無視した人はいたのかと尋ねる。何割かは無視して危険な目に遭い、そのうちの何割かは後遺症を負ったり死亡したりしたそうだ。
「俺の力不足です」
謙虚な声でバナシュは言う。俺たちはバナシュの案内で、大地の槍から続く洞窟の入り口を、いくつか見て回った。そのうちの一つが奇房と呼ばれる複数の閉鎖環境に続いているそうだ。
「ここから、どれぐらいかかりますか?」
「このメンバーだと、片道一時間ほどだと思います。昔行ったときに楔を打ち込んでロープをかけられるようにしています。
明日は、私が先行しながらロープを渡します。それを手すりにして下りてもらいます。垂直のところもありますので、補助が必要だと思います。
おそらく、私とアステルさんとグラノーラさんだけなら二十分もかからずに行けると思いますが」
バナシュは、俺たちの身体能力を的確に見抜いている。
俺とグラノーラは、イレギュラーな自然環境に慣れている。ココルは身体能力は高いが、都会暮らしなので自然環境に慣れていない。ニーナとウルミは論外だ。
「垂直のところは、どれぐらい下りるんですか?」
「そうですね、私の身長の十倍ぐらいです。両手を広げれば簡単に届くぐらいの幅の穴なので、手足で体を支えながらゆっくりと下りられます。ただ、危険ではあるのでロープで体を支えます。そういう場所が何ヶ所かあります」
俺やグラノーラやココルは大丈夫そうだが、ニーナやウルミが心配だ。これは、明日は大変だぞと思った。




