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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第21章 大深度のテラリウム

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21.4 円蓋と千枚皿

 洞窟に入った。宿屋の主人が言っていたように、中は肌寒かった。

 隊列の先頭はバナシュだ。その後が俺とココル。次にグラノーラで、最後はニーナとウルミにした。


 三本の松明に明かりを点ける。バナシュと俺、最後尾のニーナがそれぞれ持つ。

 洞窟は滑らかな石で覆われており、濡れて滑りやすかった。鍾乳洞というらしい。長い時間をかけて地中の岩石が溶けて複雑な地形を作ったそうだ。

 冒険者が探索を終えているのはごく一部で、伝承によればいくつかの山に跨がって洞窟は続いているという。


 いたるところで水滴の音がした。水の流れる音も聞こえる。洞窟というから、もっと静かな場所を想像していたが、想像していたよりもはるかに音に満ちた場所だった。


「今日はまず、一つ目の中継地点を目指します。洞窟探索者たちのあいだで円蓋といわれている場所です」


 人の背の三倍ぐらいの横幅がある通路を通りながら、バナシュは言う。三倍というと広そうに思えるが、人が歩きやすいところは限られている。まっすぐ進めない場所が多く、アップダウンもかなりあった。


 円蓋と呼ばれる場所に着いた。半球状の広場で、冒険者たちが多くいた。テントや木箱もあり、食料などの物資を販売している子供たちもいた。

 水たまりには、黄緑色の光が集まっている。あれが地下蛍か。網で地下蛍を捕っている大人たちもいた。奥の方に行けば、もっと多い群生地もあるとバナシュが教えてくれた。


 人々が多く活動している様子を見て、なるほど中継地点だと思った。

 ここに来るまで、特に危険そうな場所はなかった。そこそこ奥へと入ってきているが、ここは人間の領域の延長なのだろう。


「今日はまだ奥まで進みます。女性の方々は、体力は大丈夫ですか?」


 バナシュは、ニーナとウルミを見ながら無愛想な声で言う。なるほど、体力がない二人が慣れるのに数日かけるというわけか。


 俺はいつもの癖で、俺とグラノーラの体力を基準に物事を考えていた。少し反省して、ニーナとウルミの様子次第では、深部に行くタイミングを遅らせないといけないなと思った。


 円蓋で温かいスープを買って飲んだ。この場所にはトイレも用意されていた。出したものは洞窟の外に運び出すそうだ。中はなるべく汚さず、汚物は近くの畑の肥料などに使うという。

 閉鎖空間で、冒険者が毎日小便大便を出せば大変なことになる。緊急の場合以外は、中継地点で用を足すようにと言われた。多数の人が出入りする洞窟では、こうした配慮も必要になるのだろう。


 三十分ほど休んだ。


「次は千枚皿を目指します」


 バナシュの言葉で俺たちは腰を上げる。再び隊列を組んで奥へと進んだ。

 洞窟の直径はこれまでよりも細くなった。足元は常時水が流れていて滑りやすい。腰をわずかに下げてバランスを保つ。慣れていないと、この歩行だけで体力をどんどん削られていく。


 広い空間に出た。ふちの立ったタルト皿に似た水たまりが無数にある。少しずつ高さが違い、上方の皿からあふれた水が下方の皿へと次々と移っているようだ。


「どうしてこんな地形ができるんでしょうね」


 不思議に思い、俺はつぶやいた。


「この洞窟内の水は、結晶化しやすい石の成分を多く含んでいます。水が溜まる場所のふちには、その成分が溜まりやすいんです。時間が経てば徐々にふちが高くなっていき、こうした地形になります」


「バナシュさんは、ここで長く働いているんですよね。こうした地形ができていく様子を見たりしたんですか?」


 バナシュは首を横に振る。


「俺の寿命よりも、もっと長い時間をかけてできたものです。ただ、俺がここに来てからも景色は少しずつ変わっています。ここの洞窟は、ある意味生きているんです」


 バナシュは嬉しそうに話す。この場所が好きなんだなと思った。


 千枚皿には、いくつかの椅子とトイレがあり、簡易的な休憩所になっていた。ニーナとウルミの様子を見る。まだ大丈夫そうな雰囲気だ。


「さらに奥に行きますか?」


 バナシュに尋ねると首を横に振った。


「帰りは同じ距離を登らないといけません。今日はここで引き返しましょう。最後尾の二人は、おそらく今晩は筋肉痛になると思います」


 確かにそうだ。俺はバナシュの言葉に従った。


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