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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第21章 大深度のテラリウム

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21.2 遠征への出発

 事務所に戻ってしばらくしたら、ニーナとウルミがやって来た。


「お久しぶりです、アステルさん、グラノーラさん、ココルさん」


 青髪に眼鏡のニーナは嬉しそうに頭を下げる。


「練習しましたよ! ばっちりです!」


 何がどうできるようになったのかは何も言わずに、橙髪に橙目のウルミはまくし立ててきた。


「それでニーナ、場所の選定はうまくいったか?」


「はい。王都から西に片道三日ほどの場所に、タタカ洞窟という大深度洞窟があります。珍しい動物や植物がよく採れるので、近くには冒険者目当ての集落もあります。発光棒などに使われる地下蛍の原産地の一つでもあります。

 冒険者たちが探索しているので、途中までは地図があります。案内人を雇うこともできます。未開洞窟の探検が目的ではないので最適だと思います」


 ニーナは鞄から地図を出して机の上に広げる。王都から西に行き、川の上流へと向かう。山岳地帯に入り、少し入ったところにタタカ洞窟の印がある。


「準備と出発の段取りはどうする?」


「今日明日で必要な資材を集めて、馬車に積み込みます。そして、明後日に出発しましょう」


「分かった。それじゃあ、さっそく動こう」


 俺たちは事務所を出て、ニーナの案内で市場へと向かった。


  ◆◆◆


 俺たちは王都を離れた。西に向かって馬車で移動している。


 今回は馬車二台で来ている。一台目は、ニーナのシャントン家が雇った護衛が乗っている。伯爵令嬢や富商の娘がいるのに、俺以外は女しかいない。ニーナの父親が気を利かせて護衛を選んでおいてくれた。


 二台目は俺たちが乗っている馬車だ。食料や洞窟探検の道具や武器防具を荷台に載せている。また、精霊瓶を作るためのガラス瓶も木箱に入れて多数持ってきている。


 御者席にはニーナが座っている。ずっと任せるとさすがに悪いので、たまに俺やグラノーラが馬を操る。ココルとウルミは、馬は全然駄目なので荷台でごろごろしていた。


 野外で二泊した。二日目の途中で、山岳地帯に入った。今日はそのまま山道を進んでいる。

 あまり整備されていない道を、ガタガタと揺られながらたどっていく。俺は、御者席のニーナの後ろで地図を確認している。


「そろそろだよな、地図の通りなら」


「ええ、そろそろのはずです」


 行く手の左右は崖になっている。道は左右に折れ曲がり先が見えない。行く手の上方には、山がいくつも見えている。


 道を折れると集落が見えた。タタカ洞窟に隣接した集落だ。俺たちは場所を聞いて宿に行く。主人に話をしたら大きめの部屋を複数手配してくれた。


「伯爵家のご令嬢と、男爵家のご子息ですか。うちはシャントン家とも取引があります。

 冒険者の中には荒っぽい者もいますので、ご一行には手を出さないように周知しておきます。処刑されることになるぞと、きつく言っておきますから」


 どこまで本気か分からなかったが、主人の目は笑っていなかった。

 護衛がいるから大丈夫だとは思うが、トラブルを避けられるのはありがたかった。


 初日は部屋に荷物を運び込んだあと、旅の疲れを癒やした。夕食をとったあと、俺は宿屋のロビーに行き、主人にタタカ洞窟の話を聞いた。


「洞窟の中は寒いですから、注意しておいた方がいいですよ」


「そう聞いていたので、いちおう冬用の厚手の服を用意しています」


「冬用の服なら、中に入るとちょうどいいぐらいだと思います」


「何か気をつけておいた方がいいこととか、ありますか?」


「きちんと平らなところ以外は歩かないことですかね。ストンと落ちて戻れなくなることがあります。

 他の冒険者が通るところなら救出される可能性がありますが、そこから外れているとそのまま死にます」


「それは怖いですね」


 俺たちは、その危険な深部に入ろうとしている。少し緊張してきた。


「あと、洞窟に入る前に、予定表をきちんと受付事務所に出しておいてください。毎回お金を取られますが、予定時刻を過ぎても帰らない場合に、探索隊を出してくれます。お金をけちるとそのまま死にます」


「けっこう、あっさり死ぬんですね」


「ええ。だから、あまり探索はお勧めしないんですよ。特に若い人には」


 受付事務所だけでなく護衛の人たちとも予定を共有しておいた方がよさそうだ。あと、無理をしない方がよさそうだと思った。


「あともう一つ。受付事務所で案内人を雇った方がよいです。過去にあった危険を全て回避できますから」


「なるほど。お薦めの人とかいますか?」


「バナシュさんをお薦めします。昔からいる案内人で、口数は少ないですが有能です。案内人の中で、最も洞窟を熟知しています」


「それは頼もしいですね」


 俺は主人に情報料を渡そうとする。主人は、部屋代をきちんともらっているので大丈夫ですと言って断った。


 翌日の朝になった。俺は自分の部屋で、洞窟探索の準備を始める。寒さと怪我を防ぐための厚手の服を着て、革鎧を着ける。頭を守るためのヘルメットに、松明とランタンを用意した。


 明かりは生命線だ。途中で火が消えたときのための着火装置も用意する。粉末状の着火材と火打ち石を組み合わせたものだ。洞窟探検に持ち込む者が多いということで購入しておいた。


 背嚢には食料と水、ロープやスコップなどの道具を入れる。武器は取り回しのよい短剣やナイフや短弓を用意している。

 すでに探索されている場所では、危ない大型生物は目撃されていないそうだが、念には念を入れての準備だ。


 準備を終えた俺は、宿屋のロビーに行く。


「お待たせ~、アステル!」


 グラノーラが出てきた。やる気満々の重装備だ。まあ、グラノーラの体力なら問題ないだろう。


 ココルも出てきた。ココルはかなり軽装だ。動きやすさを重視した感じだ。

 ニーナとウルミも出てきた。二人の荷物は少し多めだ。俺は二人の荷物を確認して、必要のなさそうなものを取り出して重量を減らした。


「よし、行こう。まずは、受付事務所に行って、案内人を雇おう。バナシュという人がいいと、宿屋の主人に教えてもらった。彼に予定表の書き方を聞いて、受付事務所に提出する。予定は、シャントン家の護衛にも共有しておく」


 俺たちは宿屋を出て、受付事務所に向かった。


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