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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第21章 大深度のテラリウム

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21.1 模擬戦

 ――八月上旬。


 夏休みも半分が過ぎ去った。

 俺とグラノーラは王都に戻った。魔法学校の宿舎に荷物を置いて、その日は宿舎で過ごした。

 翌日の朝、俺とグラノーラは、ガゼー地区の事務所に行った。


「お帰りなさいませ、アステル様!」


 赤髪のココルが、元気よく出迎えてくれた。部屋には知らない女がいて、椅子に座ってふんぞり返っている。化粧をして顔の傷を隠しているフィーだろう。その態度のでかさからすぐに分かった。


「よう、アステル」


「何でいるんだ?」


「私の別荘だ」


「別荘じゃないぞ」


「つれないなあ。おまえの弟子の修行を手伝ったんだぞ」


「おまえの姉弟子だ。手伝って当然だ」


 フィーは舌を出して煽ってくる。何をしに来たんだ本当にと思う。


「単眼鬼の件だ」


 唐突にフィーは言い、俺は驚いて顔を見る。


「あれからゾーイは王都をいろいろと回っているんだが見つかっていない。

 取り逃したのは、あいつにとっても腹が立ったようでな。潜伏するなら貧民街だと思って、そうしたところを中心に探し回ったそうだ。そして、少なくとも貧民街にはないと確信したそうだ。まあ、伝言はそれだけだ」


「ありがとう、情報共有は助かる」


 フィーは大げさに笑みを作った。


「そういうことだから、そっちでも何か分かったら教えてくれ。まあ、私たちは、依頼がないときの暇潰しだけどな」


「分かった。新しい情報が出てきたら伝える」


 フィーは立ち上がり、扉の前に立った。


「それじゃあ、大師匠とやらによろしくな」


 フィーは、手をひらひらと振って、立ち去っていった。


 俺はココルに顔を向ける。


「マルのことを話したのか?」


「詳細は話していません。アステル様に師匠がいるということ、その方から魔法について学んでいるということだけです」


 俺はマルを呼ぶ。


「織り込み済みだ。さすがに手土産なしには付き合ってくれんだろう。魔法を改造して制約を施しているから、知り得た魔法の情報を、他人にべらべらと話せるわけではないからな」


 仕方がないというところか。俺はココルに視線を戻す。ものすごく恐縮して縮こまっている。


「すまない、ココル。俺の言い方がきつかったようだ。まあ、さっきの様子なら、修行の方はうまくできたようだな」


「はい。私が知らない技がいいだろうということで、徒手格闘術の稽古を中心につけてもらいました」


 ココルは明るい顔で言った。


 ココルの技は、我流の決闘代行から始まっている。ある程度、型は習っているようだが、多くの技は自身が工夫したものだ。

 俺と会ってからは剣術の稽古をつけておいたが、剣に偏った訓練しかしていない。徒手格闘術は学んでおいた方がよいだろう。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 グラノーラが腕を組んで横柄な態度を取り始めた。


「徒手格闘術を学んだなら、私と組み手よ! 私は徒手格闘が得意なんだから!」


 何かに火がついたようだ。


「えっ、そうなんですか?」


「ああ、お嬢は、俺よりも徒手格闘はうまい。どれぐらいの技を身に付けたのかを見る練習相手には、ちょうどいいかもしれないな」


 ニーナやウルミはまだ来ていない。時間を潰すにはちょうどいいと思った。


「いちおうルールを決めておこう。目などの急所は狙わないこと。相手の腹部に触れれば勝ちということでどうだ?」


「それでいいわよ。ココルちゃんはどう?」


「私もそれで構わないです」


「じゃあ、審判は俺がする。表に出て、合図をしてから勝負開始だ」


 俺たちはいったん事務所を出て、建物の前の舗装されていない道に出た。

 グラノーラとココルは、少し離れて向かい合って立つ。俺は手を前に出して開始を宣言する。


「それでは勝負開始!」


 グラノーラは腰を低くして構える。ココルはそのまま突っ立って、すたすたと歩き始めた。


 迎撃範囲に入ったところで、グラノーラが踏み込んで右の正拳を突き出す。ココルは半身になり、手のひらで拳をそらして背中側に回り込む。

 グラノーラは、肘を折り畳んで、肘打ちでココルの顔面を狙う。おいおい腹を触ったら勝ちだと言っただろうと、俺は突っ込みたくなった。


 ココルは半歩下がって肘打ちを避けた。上半身が後ろに傾いたところで、グラノーラが踏み込んで前蹴りを放つ。

 ココルは素早くしゃがんで避けて、足払いを仕掛ける。グラノーラは空中へと跳び、拳を構えた。


 グラノーラの顔は楽しそうだ。内臓を破裂させても、あとで治せばいいと思っている顔だ。グラノーラは正拳を突き出す。拳はココルの腹の直前で止まった。


 ココルは脚を伸ばしてグラノーラの腹に先に触れていた。ココルの方が背が低いとはいえ、手と足の長さなら足の方が長い。グラノーラは、ココルの脚の先で姿勢を保つ。


「ココルの勝ち。腹に先に触れたからな」


「くー、もう一回!」


「そろそろニーナとウルミが来る。これでお終いだ」


「そんなー!」


 グラノーラは一回転して地面に立って悔しがる。ココルは立ち上がって砂を払った。


「だいぶ強くなったな」


 俺はココルに声をかける。ココルは落ち込んだ顔をする。


「グラノーラさんって、本気じゃないですよね。呼吸が全然乱れていないですし」


「あー、そうだな」


 グラノーラは自身の怪我を瞬時に治せる。だから、本気で戦うときは、被弾覚悟でぎりぎりまで距離を詰めてくる。きちんと距離を取って戦っていたから、本気ではなかったんだなと思った。


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