20.7 故郷との別れ
――七月下旬。
家を離れる日になった。グラノーラが伯爵家の馬車に乗り、迎えに来てくれた。
「お兄様! お兄様!」
エリーとマリーの双子の妹は、俺があげたおそろいの髪飾りを着けている。二人は俺にすがって、ぐすぐすと泣いた。
「大丈夫だよ、また帰ってくるから」
「もっとたくさん帰ってきて!」
二人に泣きつかれて困ってしまった。
しばらく妹たちをあやしたあと、俺はグラノーラが待つ馬車に乗った。
「もう、大丈夫なの?」
「仕方がない。切りがないからな」
「うちは、そういうのはないわよ。そこは男の子ね」
同じ下の子でも、けっこう違うなと思う。
グラノーラが御者に指示を出して馬車はゆっくりと進みだす。
目の周りを真っ赤に腫らした状態で、妹たちは俺を見送ってくれた。両親も屋敷の外に出てきて、手を振ってくれた。
遠ざかる実家に手を振り続けたあと、前を向いた。俺のことを、優しい微笑みで見ているグラノーラと目が合った。
「帰省はどうだった? お父さんとお母さんにたっぷりと甘えられた?」
「そんな年じゃねえよ。お嬢の方はどうだったんだよ」
「たっぷりと甘えたわよ。そしてお小遣いをせしめた。弟たちに上げた光る剣は大好評だったわよ。私が寝ていると闇討ちしてくるの。光るからばれるんだけどね」
「物騒だな」
「アステルがあげた髪飾り、エリーちゃんとマリーちゃん、気に入ったみたいね」
「ああ、ニーナさまさまだな。俺一人では、ああいった品物を格安で入手する方法にはたどり着けなかった」
「王都に戻ったら、いよいよ洞窟探検ね。ニーナ、うまいこと見つけてくれたかしら」
「そこは問題ないだろう。その方面には滅法強いからな」
「そうね。私たちの参謀長みたいなものだしね」
「あと、ココルが心配だな。フィーのもとに押しかけて修行だろう。マルも無茶を言う」
「無事だといいけれど。あと、変な影響を受けていなければいいけど」
「まあ、心配だな。フィーのような性格になっていたら困る」
俺とグラノーラは想像する。フィーみたいな性格になっているココルを。めちゃくちゃ似合わないなあと思った。
「あとは……」
「ウルミは平常運転だろう」
「でしょうね」
「修行が進んでいればいいんだが」
「変なものに心を奪われていなければ、真面目にやっていると思うんだけど」
「脇道にそれやすいからな」
「本当、それなのよね」
グラノーラは、バスケットを取り出して開けた。中には、お菓子がたくさん入っている。
「アステル、一緒に食べましょう」
「ああ」
俺たちはおやつを食べながら、これから始まる洞窟探検について意見を交わした。




